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髙橋史朗

【第318回・特別版】「南京」「慰安婦」の記憶遺産阻止へ何が必要か

髙橋史朗 / 2015.07.27 (月)


国基研理事・明星大学教授 髙橋史朗

 

 中国は昨年、ユネスコ記憶遺産として、「南京大虐殺」と中国人の「従軍慰安婦」に関する資料を登録申請した。
 「南京大虐殺」については、①日本軍の蛮行を写したとされる16枚の写真②虐殺犠牲者を米人牧師ジョン・マギーが撮影したとされる「マギー・フィルム」③2万人以上の強姦があったと主張する『中国人慰安婦』(オックスフォード大学出版)に引用されている中国人女性、程瑞芳の日記④虐殺を証言したとされる元日本兵の供述書⑤中国国民党による南京軍事法廷(1946年)で裁かれた第6師団長、谷寿夫中将に関する裁判資料―などがある。
 また、「従軍慰安婦」については、日本の工兵が上海に建てた木造の「楊家宅慰安所」などの19枚の写真が含まれている。
 ユネスコは事前審議で、「南京大虐殺」の資料に不備があるとして追加資料の提出を求め、ユネスコ事務局の登録小委員会の審議を終え、国際諮問委員会に結論が先送りされた。同委員会で9月に登録の可否が決定する。

 ●中国側資料の問題点
 これらの資料の問題点について、幸福実現党が反論書をユネスコ本部に提出したが、日本政府として明確に反論する必要がある。
 まず、①の写真は東中野修道氏らの共著『南京事件「証拠写真」を検証する』において指摘されているように、服装が軽装で南京が陥落した冬の時期に合わない。②のフィルムには、日本軍が虐殺している映像は全くない。
 ③の日記は中国版「アンネの日記」と呼ばれ、英語版は南イリノイ大学出版より刊行されているが、全て伝聞情報に依拠している。④の元日本兵、永富博道氏らの供述書は、中国共産党の日本人捕虜洗脳教育の結果の政治宣伝にすぎない。⑤の裁判資料については、第6師団の約100名の元日本兵が反論した出版物がある。
 また、中国は「性奴隷」の証拠として提出した楊家宅慰安所の「写真の現物と著作権は中央档案館(公文書館)にある」と申請書に明記しているが、この写真は慰安婦を検診した軍医の麻生徹男氏が撮影したものを無断で使用し、虚偽の申告をしたものであり、遺族は著作権侵害だと訴えている。
 中国は申請資料の全面公開を拒否しており、ユネスコが定めた「世界記憶遺産保護のための一般指針」に違反している。

 ●官民一体で反論を
 筆者は7月9日にパリのユネスコ日本代表部の幹部に英文の反論資料を提示して協議したが、部分的に反論しても、「南京大虐殺」に対する日本政府の基本的見解を明示して反論しなければ、最終的な決定権を持つユネスコ事務局長が全体としてどのように判断するかは予断を許さない。国際諮問委員会は8月が休会のため、一刻の猶予もない。官民一体となった反論に万全を期す必要がある。(了)