公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西修

【第334回】自民党の憲法改正の本気度を問う

西修 / 2015.10.26 (月)


国基研理事・駒澤大学名誉教授 西 修

 

 自民党憲法改正推進本部長が、船田はじめ衆院議員から森英介衆院議員(元法相)に交替した。当然といえる。平和安全法制の国会審議をあれほどまでに混乱せしめた本部長の責任は免れない。もっとも、私としては、本部長だけではなく、補佐機能をも含めて、自民党全体の責任が問われなければならないのではないかと考える。
 やや厳しい評価を下せば、今回の混乱は自民党の無知、無策、不勉強の結果だったといえる。衆院憲法審査会で与党が推薦した長谷部恭男早大教授の日ごろの言動を少しでも知っていれば、平和安全法制を違憲であると発言することは容易に推測できたはずだ。いったいチェック機能はどうなっていたのであろうか。

 ●混乱招いた党の無為無策
 平和安全法制が違憲であることの大合唱が起こっている中で、衆院平和安全法制特別委員会での与野党の質疑時間は与党1に対して野党9という割合であった。委員会における自民党と公明党の与党委員は、45人中、32人もの多きを数えた。私も、委員会で参考人発言をしたが、与党議員の多さを肌で感じた次第である。にもかかわらず、委員会では、「違憲法案」「戦争法案」「徴兵制」「反立憲主義」の声ばかりが目立ち、一部のマスコミや国民をも巻き込み、反対勢力のなすがままの委員会審議になった。自民党の無為無策のしからしめた結果である。
 平和安全法制は、決して違憲でも戦争法でもない。明らかに合憲であり、戦争抑止法である。徴兵制に結びつくことはないし、歯止めの要件などから、立憲主義を逸脱するものではない。自民党議員は、それぞれの選挙区で法制の内容を選挙民に説明すべきであった。しかしながら、きちんとした説明をできる議員があまりにも少なかった。不勉強ぶりが露呈されることになった。

 ●9条の優先順位は?
 このような混乱の一因が、憲法第9条のあいまいさにあることは歴然としている。わが国を取り巻く厳しい国際環境を直視すれば、憲法第9条の改正は必然というべきである。来年1月には開かれる通常国会において、衆参両院の憲法審査会で第9条をはじめ、憲法改正に向けた具体的な審議が行われなければならない。
 今回の憲法改正本部長の交替がその布石なのか。森本部長は、調整型といわれている。自民党の憲法改正草案のうち、優先順位を整えることが本部長に課せられている使命である。どのような項目をいかなる順序で憲法審査会に提案するのか、まさに自民党の憲法改正の本気度が問われている。(了)