11月7日、台湾総統馬英九と中国国家主席習近平による首脳会談で、馬は冒頭、次のような提案をした。
―「92年共通認識」を固め、平和な現状を維持する。両岸(台湾と中国)交流を拡大する。両岸が協力し中華の振興に尽くす。両岸の人民はともに中華民族である。
会談後の記者会見で、中国側は次のように習の発言を紹介した。
―中国と台湾はともに「一つの中国」に属し、両岸は国と国との関係ではない。両岸の同胞は一つの民族に属する。台湾の各党派は「92年共通認識」を直視してほしい。両岸関係の平和的発展の最大の脅威は、台湾独立勢力による分裂活動である。
●台湾政権交代前に「一つの中国」演出
両者ともに「92年共通認識」を強調している。それは、双方が「一つの中国」を認め、その内容については、台湾側は「中華民国」を意味すると称し、中国側は「中華人民共和国」を意味すると称することができるというものである。
第2次世界大戦後のサンフランシスコ平和条約は、日本が台湾を放棄すると述べているが、帰属先を明記していない。そのため、いまだに日本などは台湾を中国の一部と認めていない。従って1949年に滅亡したはずの「中華民国」が台湾にあるというのは虚構に過ぎない。実際に馬は会談中、「中華民国」の存在を主張することもなかった。
なお「92年共通認識」と言うが、当時台湾総統だった李登輝も、対中交渉に当たった海峽交流基金会会長の辜振甫も、そのようなものは存在しないと言っている。馬と習は虚構の積み重ねを交渉の基本にしているのである。
両者は、来年1月の台湾総統選挙で民進党政権が生まれ、親中の国民党政権に取って代わるのを見込み、その前に台湾を中国の一部として、「一つの中国」の枠組みの中にもう一歩押し込もうとしたのである。
馬にとってはその親中政策を促進し、初の台中首脳会談を実現したという歴史的地位を占めることが大事であった。習にとっては、東シナ海と南シナ海における力の政策で関係国のひんしゅくを買う中で、台湾を共闘の仲間に引き込む狙いがある。
●進むべき道は台湾独立
東シナ海と南シナ海の結び目に位置し、太平洋にも面する台湾の戦略的重要性を考えたとき、台湾が中国の一部に組み込まれることは、日米などにとって問題は小さくない。また台湾では、中国の外にある現状の維持を望む者が80%以上を占めている。「一つの中華民族」というのは、他にチベット、ウイグル、モンゴル民族などが存在することを見ても、これまた虚構であることが分かろう。
総統選で当選が確実視される民進党候補蔡英文は、馬はかつて自身の総統選の時に2300万の台湾人の投票で台湾の前途を決めるべきだとの公約を掲げたのに、習との首脳会談で台湾人の希望を述べることがなかった、と失望を表明した。
台湾の今後の課題は、民意に従い、習の言う「最大の脅威」である台湾独立の道を進み、中国の侵略に反対し、日米などと連携して自由民主の社会を守ることである。(文中敬称略)