原子力規制委員会(以下、規制委)は国家行政組織法による「3条機関」として、内閣から独立した強い権限を持ち、委員長の任免は天皇が認証する。揺るぎない権限を与えられた規制委だが、機能していないのではないか。
11月13日、規制委は高速増殖炉「もんじゅ」の運営母体、日本原子力研究開発機構(以下、機構)に関して、主管する文部科学省に、「(機構は)もんじゅに係る保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有していない」と厳しく勧告した。半年を目途として、①機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有する者を特定せよ②条件が満たされない場合、もんじゅを根本的に見直せ―と迫った。
●もんじゅ廃炉を事実上勧告
規制委の勧告に法的強制力はない。だが伝家の宝刀と呼ばれる勧告は強制と同等の重みを有する。もんじゅを扱える専門家集団は機構以外には存在しないのが現実であり、勧告は事実上廃炉を求めたと言える。
もんじゅは使用済み核燃料を再処理して得たプルトニウムを燃料とし、2500年間にわたるエネルギー供給を可能とする。その廃炉は再処理自体の目的を曖昧にし、核燃料サイクルを破綻させかねない。法的強制力のない勧告で、核燃料サイクルを完成させ安定的に原子力発電を継続するという日本の原子力政策の根幹が破壊されかねない。田中俊一委員長の意図もそこにあると見てよいだろう。
菅直人氏は首相辞任後の2013年4月、北海道新聞紙上で、政権が代わっても簡単には原発を再稼働させない仕組みを残してきており、その一つが規制委を作ったことだ、と語っている。活断層と40年ルール(稼働から40年で原発を廃炉とするルール)の問題で2030年代半ばに原発をなくせるとも氏は豪語した。
●自民党の怠慢
菅氏ら民主党政権が選んだ田中委員長の勧告が、もんじゅに対する厳しい世論の前で、菅氏の放った毒矢として機能する可能性は大だ。こんな独善を許してよいのか。そもそも規制委の手法で原発の安全が保てるのか。
わが国の原子力規制の安全審査は書類作りで疲弊しており、先進国で最も遅れている。欧米では審査書類の電子化は常識だが、日本はCD-ROMでは要件を満たさず、10万ページといわれる書類を紙で出さなければならない。
また欧米では、原子炉の安全や行政手続きの合理性などについて、専門家集団が監視し助言する。規制委は彼らの意見を尊重しなければならない。
自民党は政権復帰後も規制委の人事を国会で承認し、菅氏以降の反原発政策を見過ごし、原子力政策をここまで追い込んでしまった。自民党は一体何をしているのだ。一刻も早く規制委に対し監視と助言を行う専門家委員会をてこ入れし、規制委のあり方を正すのが政権与党としての責任である。(了)