公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第342回】日本は中国の弁護士弾圧に目をつぶるな

櫻井よしこ / 2015.12.21 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 12月14日、北京市第2中級人民法院(地裁)で人権派弁護士、浦志強氏に対する初公判が開かれた。氏は昨年5月3日、内輪の研究会「天安門事件25周年記念検討会」に参加して以来拘束され続け、騒動を引き起こした罪と民族の恨みを煽動した罪に問われた。
 米国務省は重大な関心を示し、即時釈放を直ちに求めた。これに対し中国外務省は「中国の司法権と内政への干渉をやめよ」と反論した。この間、わが国政府は沈黙を守ったままである。
 浦氏弾圧は習近平政権の対日歴史戦と同根である。浦氏も日本も、中国共産党一党支配の維持に必要な「中国の敵」に位置づけられている。この局面で中国政府の浦氏弾圧に抗議すべき国は、実は、米国よりも日本なのだ。
 
 ●当局と闘い続けた浦志強氏
 浦氏は1965年生まれ。天安門事件当時、中国政法大学の院生として「時報自由」(報道の自由)と「結社自由」(結社の自由)を求めてハンストに参加した。同事件以降、多くの民主化運動のリーダーが海外に逃亡し、或いは事件に目をつぶってビジネス界での成功を目指したのとは対照的に、浦氏は国内で弁護士となり、一貫して価値観の闘いを続けた。
 氏が取り上げてきたのは共産党一党支配の制度に関わる事例、たとえば「労働教養制度」や「双規」問題である。前者は刑罰を受けた人間に強制労働を科して再教育する制度で、司法判断なしに公安が独断で2年間は勾留できた。この制度は浦氏の活躍もあり、今は廃止された。後者は、中国共産党員規律検査委員会が時間と場所を指定し、出頭を求めて取り調べる制度だ。「双規」の下、人々は突然連行され、往々にして激しい拷問を受ける。
 2013年、浦氏は「双規」で生じた死亡事例3例を告発した。うち1例は、浙江省の国有企業の技術者が4カ月にわたる双規の取り調べで、頭から氷水に突き落とされるなど、凄惨な拷問の末に死亡した。
 
 ●民主化支援は日本の責務
 中国共産党は、自らの生き残りのため外に敵を創る。日本を筆頭に外国に対して深い猜疑心を国民に抱かせる。歴史でも国際政治でも、国民には真実を伝えず、共産党以外の見方や考え方を許さない。中国共産党にとって、一党支配の根底にある暗黒体質を暴き続ける浦氏は、最も恐るべき存在であろう。氏が習政権の逆鱗に触れたゆえんであろう。
 日本はこのような時こそ、価値観の旗を高く掲げ、中国の民主化を願う人々への支援を表明すべきだ。中国にも民主化の時代は必ず来る。自由と法治の価値観を基に、中国に物申し続けることが大事だ。そうすることはまた、何よりも中国共産党の不条理な対日歴史戦から日本を守る最善の策でもある。(了)