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太田文雄

【第343回・特別版】自衛隊員・予算増加で持続的な南シナ海監視を

太田文雄 / 2015.12.21 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 オーストラリア空軍がこのほど、南シナ海で哨戒機P3による監視飛行を行った。同国のペイン国防相は12月17日、中国が人工島の軍事化を進める南シナ海での監視飛行をやめるつもりはないと表明。同日付のジャパン・タイムズは今後「日本に注目が集まる」と書いた。
 他方で、10月下旬に米海軍のイージス艦ラッセンが人工島から12カイリ以内を通過する「航行の自由」作戦を実施した直後、米国防総省当局者は「3カ月に2回以上、この作戦を行う」と発言した。しかし、米空軍が爆撃機B52による定期飛行を11月と12月に各1回実施したのを別にして、本年中の新たな航行の自由作戦はなさそうである。(12月のB52飛行では1機が人工島から2カイリの近距離を通過したが、意図的ではなく、航行の自由作戦の一環ではなかったと国防総省は説明した。)

 ●いま可能なのはアデン湾往復時の航行
 ペイン国防相はかねて、南シナ海にはオーストラリアの国益が存在すると表明してきた。中国の弾道ミサイルが南シナ海に配備されればオーストラリアも射程内に入りかねないことから、当然の発言と言える。
 しかし、南シナ海には我が国にとって重要な海上交通路が通っており、中国の人工島における滑走路や港湾の建設は、オーストラリア以上に日本の国益を脅かすとも言えよう。
 一方で現職自衛官によれば、自衛隊は現在の任務で手一杯で、南シナ海で持続的な監視活動を行うことは人員上も予算上も無理という。従って現状では、ソマリア沖のアデン湾で海賊対処活動に従事する艦艇や哨戒機の行きか帰りに南シナ海で監視活動を行う以外にない。
 中国は自衛隊の南シナ海監視活動に強硬に反対しているが、中国が反対する政策を実施すれば日本の安全保障上必ずプラスになるというのが、筆者の在米武官時代からの確信である。(当時も中国は、米国が推進する弾道ミサイル防衛への日本の参加に強烈に反対していた。)
 
 ●中国の孤立に拍車をかけよ
 11月の国家基本問題研究所「会員の集い」でも、陸海空の元自衛隊将官から「人員増加は認められず、予算は微増しているものの任務だけは増大の一途をたどっており、新たな任務に対応するには限界がある」との意見が表明された。
 オバマ米政権の腰が引けている中で、安部晋三首相は「積極的平和主義」を標榜する以上、中国の南シナ海領有が既成事実化するのを阻止するため、実際の行動に踏み切るべきであろう。
 フィリピンが提訴した中国との南シナ海紛争をめぐる常設仲裁裁判所(ハーグ)の裁定は来春予定され、大方の国際法学者が中国に不利なものになると予想している。また、シンガポールやマレーシアは南シナ海で監視活動を行う米海軍の哨戒機P8の配備ないし基地使用を受け入れた。さらに、来年1月の台湾総統選挙では、中国と距離を保つ民進党の蔡英文候補の勝利が確実視されている。このように中国への逆風が強まる中で、中国の国際的孤立に拍車をかけることが人工島の造成と軍事化に歯止めをかける数少ない方策である。(了)