公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第344回】「ルペン=トランプ現象」は時代の産物

田久保忠衛 / 2015.12.28 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 今年から来年にかけての世界の大問題は何か。残念ながら、東シナ海でも南シナ海でもない。国家ではない国際テロ組織またはその同調者が主権国家群を振り回している人類史上初めての現象だ。米国、ロシア、フランス、英国などの主要国はイラクとシリアにまたがる「イスラム国」(IS)の拠点を連日猛爆しているが、今年パリ(2回)と米カリフォルニア州サンバーナディーノで発生したテロは、まさに非対称的に一般市民というソフトターゲットを狙い、惨劇を引き起こしている。その衝撃の大きさは、日本に身を置いているわれわれの想像を絶するのではないか。

 ●排外的主張に支持集まる
 移民問題で頭を悩ませてきた欧州諸国には、シリアからの大量難民流入という新たな難問が加わった。指導的国家であったはずの米国は、オバマ大統領が11月13日の2回目のパリ事件の前日にABCテレビのインタビューで「ISを封じ込めた」とピント外れの発言をし、サンバーナディーノ事件の6日前にはホワイトハウスで、「国土の安全を維持するためにあらゆる措置を講じている」と、これまたのんきなコメントをしている。
 私はあえて「ルペン=トランプ現象」と呼ぶ。フランスの超右翼政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が12月に行われた2度の地域圏議会選挙で、2回目には敗れたものの1回目に人の目を見張らせる大勝利を収めた。米共和党の大統領候補者の1人ドナルド・トランプ氏は、サンバーナディーノ事件の後で「移民、難民、旅行者を含めイスラム教徒の入国を当面、全面禁止せよ」との声明を出した。ルペン氏は再来年のフランス大統領選を目指して走っているし、トランプ氏の支持率は圧倒的に高い。

 ●ヒトラー登場の前夜?
 良識ある欧米のマスコミはこぞって、ルペン、トランプ両氏の人気は一時的なもので、いずれは勢いが落ちると見ている。が、民衆の素朴な感情を唆す程度の低いポピュリストと断定していいかどうか。ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ロジャー・コーエン氏の表現を借りれば、今の世界はワイマール体制が壊れてヒトラーが登場する前夜に似てきたという。第1次大戦後に返済能力をはるかに上回る賠償金を課されたドイツが異常になったように、フランスと米国はテロの恐怖におののいている。
 ルペン=トランプ現象がどうなろうと、明確な主張をする強力な指導者を求める時代が到来している。国際情勢は理を説くだけでは動かない。(了)