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西岡力

【第345回・特別版】 日本国の名誉回復抜きの合意は評価できない

西岡力 / 2015.12.29 (火)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

 慰安婦問題について日韓両政府が「最終的かつ不可逆的な解決」で合意した。慰安婦問題が外交問題化した契機は、日本マスコミの誤報と日本政府の安易な謝罪だった。問題の真の解決には、両国が慰安婦は戦時下の貧困が生んだ悲劇だったという「不都合な真実」に向き合うことが不可欠だが、今回の合意にはそれがない。関係改善のための外交的譲歩であって、後世に禍根を残す恐れがある。

 ●国際広報の専門部署が必要
 1990年代初め、宮沢喜一首相(当時)が謝罪を繰り返した直後、年長の韓国人知識人らが異口同音に「日韓両政府は何をバカなことをしているのか。強制連行などなかった。当時の朝鮮は貧しかった。朝鮮人のげんが貧乏な家の娘を前借金などと引き換えに連れて行った。日本軍が無理やり慰安婦にしたのではない」と語ってくれたことが忘れられない。彼らがこの合意を見たら、その偽善ぶりにあきれるはずだ。
 日本にとっての慰安婦問題解決は、虚偽によって傷つけられた日本国の名誉回復なしには実現しない。ところが、今回、国連などにおける相互批判の自制を約束してしまった結果、国際社会での事実に基づく反論までもができなくなるとすれば、合意は真の問題解決をむしろ妨げることになる。
 特に、安倍政権が外務省主導の下、慰安婦問題をはじめとする歴史問題で「事実に基づく反論」を控えてきたことからすると、政府の国際広報を今後どのように再建するか、真剣な検討が必要になる。国家基本問題研究所は近く、この点について「外務省とは独立した専門部署を設置し、わが国の立場を正当に打ち出す国際広報を継続して行うこと」などを骨子とした政策提言を行う予定である。

 ●「不可逆的な解決」は本当か
 一方、同じ米国と軍事同盟を結ぶ韓国との関係改善は日本の国益につながるものだ。その意味で肯定的に評価できる部分もある。しかし、それは日本側が最低限求めた「最終的かつ不可逆的な解決」が本当に実現することが前提だ。残念ながらその点も不安要素が多い。評価は今後の展開を見た後にしかできない。
 岸田外相は、自身が認めた「日本政府の責任」の中に法的責任は含まないという点をはっきりと説明しなかった。当然、日本政府は日韓基本条約と請求権協定で問題は解決済みという立場を変えていないから、後日、その点が日本国内の議論で明確化されると、韓国世論が「妄言」だとして反発することは十分あり得る。そうなれば、韓国の次期政権が再度、この問題を取り上る可能性がある。
 大使館前の慰安婦像撤去についても、韓国政府が適切な解決に努力すると約束したが、韓国の運動体や世論がそれを受け入れない可能性が高い。すでに運動体は声明を出して撤去を拒んでいる。そうなると、日本世論が反発し、問題は解決しない。(了)