この大統領があと1年も米国の外交・安全保障政策のかじ取りをするのか、と暗然たる気持ちになった。オバマ大統領の任期中最後の一般教書演説(1月13日)から読み取れるのは、「イスラム国」などイスラム過激組織との戦いという目前の課題への対処に精いっぱいで、新興大国とりわけ中国からの挑戦という中長期的な難問に思いを巡らすことができない政権末期の指導者の姿であった。
●新興大国の挑戦を軽視
焦眉の課題が世界各地で頻発するイスラム国およびその関連組織や支持者によるテロへの対策であることは分かる。しかし、オバマ大統領が演説の中で自慢したように、いやしくも米国が他国の追随を許さない世界最強の国家であるなら、米国主導で築いてきたルール重視の国際秩序を揺るがそうとする挑戦国をはねつける戦略的思考がにじみ出る一般教書演説であってほしかった。
ところがオバマ大統領は、世界が危険な時代にあるのは「どこかの超大国が登場しようとしていることが主因ではない」と述べて、中国の危険な台頭を軽視しているかのようであった。「われわれは悪の帝国(複数)より破綻国家に脅かされている」と語ったことにも問題がある。「悪の帝国」とは1983年にレーガン大統領(当時)がソ連との対決姿勢を鮮明にした際に使った言葉だが、オバマ大統領は悪の帝国の脅威を否定したことで、中国やロシアと対決するつもりのないことが世界に分かってしまった。
米国は「世界の警察官」にならないというオバマ大統領の主張は、今回の演説にも盛り込まれた。世界の警察官とは、国際社会の安全を維持するために必要なら軍事力を使う超大国の役割を強調する言葉だ。しかし、オバマ大統領は世界の至る所で破綻国家の占領と再建に首を突っ込むという意味にすり替えてこの言葉を用い、世界の指導国としての米国の役割を拒絶した。
●中国は軍再編で攻勢
総じて今回の一般教書演説は、オバマ大統領個人というより米国の政治家や国民一般の現時点におけるアジア情勢への関心の低さを反映するものだったと言えそうだ。演説では、日本や在日米軍基地に深刻な脅威を及ぼすわずか1週間前の北朝鮮核実験への言及さえなかった。中国が人工島の軍事化を着々と進める南シナ海情勢も取り上げられなかった。アジア関連では、日米など12カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意がオバマ政権の実績として誇示されたことが目に付く程度である。
米国のそうした消極的な対アジア姿勢を見て、中国はほくそ笑んでいるに違いない。中国は年初、サイバー戦や宇宙戦を担うとみられる「戦略支援部隊」の新設や、弾道ミサイル、巡航ミサイルを運用する第二砲兵の「ロケット軍」への再編を柱とする人民解放軍の組織改革を発表したばかりだ。
アジアの安全保障問題への関与に尻込みする米国と、軍拡にまい進する中国の間に立って、日本が「平和憲法」にしがみついていられない状況にあることは、ますます明らかになっている。(了)