政府はアベノミクスが「第2ステージ」に入ったと表明したが、従来のアベノミクスとの関係は不明なままで、その内容も具体策も曖昧である。第2ステージの目標の一つである「名目GDP(国内総生産)600兆円」は、既に発表されている「中長期の経済財政に関する試算」における数字と実質的に変わりがない。
目標以上に重要なのは実現の方法である。金融緩和および財政支出という短期の需要拡大策への依存が依然として大きい。いま必要とされているのは、先送りされてきた構造改革の実現であることを歴史から学ぶべきである。
●英国衰退の教訓
国家の栄枯盛衰は世の常である。20世紀初頭まで世界の覇権国であった英国は、19世紀後半に貿易収支が赤字に転じたものの、資本輸出の配当、海外貸し付け利息、海運業のサービス収入によって、経常収支黒字を計上していた。しかし、新興経済国の米国やドイツの台頭により、英国は次第に製造業大国の地位を失い、長期デフレに陥った。
その要因は、産業競争力の低下、インベーションの停滞による高コスト経済と収益率の低下である。つまり、収益率が市場利子率を下回り、投資の停滞を引き起こし、物価の累積的な下落につながった。当時、英国は最大の債権国であり、直ちに危機に陥る危険が小さかったために、構造転換が遅れ、長期の低迷に陥ることになった。経済の抜本的な改革は、1979年に就任したサッチャー首相によって着手されるまで実現されなかった。
●危機感の高まらない日本
20世紀初めの英国の状況は、中国など新興経済国の追い上げにより競争力を失った日本経済の現状に重なるところが多い。
日本の債務残高は、政府の借入総額を意味する「粗債務」と、粗債務から政府が保有する金融資産を差し引いた「純債務」のいずれも対GDP比が先進国で最も大きい。しかし、日本は経常黒字国であり、国債はほぼ国内で消化され、国債金利は世界で一番低いため、外国資本の逃避によって日本が財政危機あるいは金融危機に陥る危険は今のところ小さい。その目先の認識が、必要とされる構造転換を遅らせている。日本国内から新興経済国へ投資がシフトし、イノベーションも遅れ、収益率も上がらないにもかかわらず、危機感は高まらない。
アベノミクスの金融緩和も財政支出も需要サイドの改革である。日本経済の再生に必要なのは供給サイドの改革である。日本経済が再生するには、規制改革を核とする経済の構造転換を通じて、実物資産の収益率を引き上げることが不可欠である。アベノミクス第2ステージの成否だけでなく、日本経済の再生も、実効性のある構造改革の実現に懸かっている。環境の変化に応じた構造転換がなされない限り、歴史は繰り返されるのである。(了)