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田久保忠衛

【第350回・特別版】出てきた「日米台」対中国の構図

田久保忠衛 / 2016.01.18 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 1月12日から台湾を訪問して17日夜に帰国し、日本の報道ぶりを一覧したが、朝日新聞の台北支局長が一面に書いていた「高まる台湾人意識」と題する豆解説は光っていた。民進党の蔡英文主席が16日の総統選挙に勝って、詰めかけた夥(おびただ)しい人々を前に演説をした場面を目にした者でなければ分からない。蔡主席は「ナショナル・アイデンティティー」という言葉を連発した。「われわれは台湾人だ」「台湾、台湾、台湾」、「加油」(頑張ろう)の大群衆による連呼を耳にすれば、その迫力は分かる。
 
 ●台湾人の団結を呼び掛け
 かつて李登輝総統は司馬遼太郎との対談で「台湾人に生れた悲哀」という表現を使った。いまは故人となってしまったが、黄昭堂、周英明氏らが蒋介石政権の弾圧に抗して台湾人の独立を命懸けで目指した思いが「アイデンティティー」という表現に込められていると思う。
 はっきり言うと「外省人」は中国人、「本省人」は台湾人ということになるが、それはあまりにも単純な区分で、危険だろう。台湾が二つに割れて血みどろの闘争になったら、どこの国がそれを利用するかは明らかだ。だからこそ蔡主席はこれからの団結を説いた。どの新聞も「台湾『独立』志向の強い民進党は」と書いているが、アイデンティティーにはもっと複雑な意味が含まれている。
 同じ演説で蔡主席は、南シナ海で挑発的な行動を取っている中国をめぐって安倍晋三首相と話し合いをしたと述べた。昨年8月14日に安倍首相が出した戦後70年談話を思い出してほしい。談話は、「台湾」を一般の国々と共に並べ、堂々と主権国家扱いをしたではないか。しかも、その言葉の位置は「中国」の前に置かれていた。蔡演説と合わせて読むと、日米台が中国に対抗する形で自然に勢力の均衡が形成されていく気配が出てきた。
 
 ●「現状維持」への回帰
 蔡総統の誕生は中国にとって一大衝撃となるのは間違いない。どう出てくるかは不明だが、台湾の取るべき道ははっきりした。第一に、国民党政権が手を抜いてきた防衛費を思い切って増やさなければならない。自分を守る気概がなくても米国は守ってくれるなどとの安易な考え方は許されなくなってきた。第二に、中国への経済面での依存度を小さくすべきだ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加は絶好の手掛かりだが、肝心の米国内での議論をオバマ大統領はまだまとめていない。日台経済の強化は半ば必然だろう。中国が危うくしてきた「現状維持」を、徐々にあるべき姿に戻す動きを台湾の総統選は誘発した。(了)