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石川弘修

【第351回・特別版】政治主導で亡命チベット人援助を

石川弘修 / 2016.01.20 (水)


国基研理事兼企画委員 石川弘修

 

 チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相(47)が1月8日から13日まで日本を訪問、国家基本問題研究所役員をはじめ、国会議員、大学関係者、曹洞宗など仏教関係者らと会い、意見交換や講演を行った。センゲ首相が政治指導者に選出されて初訪日した4年前に比べ、メディアの扱いは小さかったが、千葉工業大学(千葉県習志野市)が亡命チベット人留学生5人の受け入れに原則的に同意するなど、教育分野の協力で実質的な進展が見られた。今後双方で具体的計画を詰めるが、センゲ首相の就任以降、日本の大学が亡命政府から留学生を受け入れるのは初めてであり、日本・チベット関係の発展へ向けた一歩となろう。

 ●民族存続のカギ握る教育
 中国のチベット自治区が当局の厳しい監視下で自由、人権をはく奪され、仏教活動も抑圧されている以上、チベット民族の浮沈はインド北部のダラムサラに置かれた亡命政府の活動にかかっている。宗教指導者のダライ・ラマ14世、政治指導者のセンゲ首相が車の両輪となって日本、米国など先進自由民主主義諸国の理解と支援を訴えているが、亡命政府にとって一番の課題は、次代を担う子供たちの教育だ。
 中国から亡命したチベット人や、亡命先で生まれたチベット人は、世界中に約20万人いる(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所)。そのうち、ダラムサラの1万7000人を含む9万人がインドに居住している。しかし、小中高の学齢期の少年少女がインド国内に2万5000~6000人いるのに対し、チベット人向けの学校は亡命チベット人の子供を保護している「チベット子供村」(TCV)の全寮制学校13校だけ。しかも、教師の85%は教育指導などの訓練を受けていないのが実情だ。TCV学校の拡大と充実が急務となっている。
 
 ●う回路を使う米政府の援助
 センゲ首相は「我々にとって大事なことは、仏教を核としたチベット精神文化の存続だ。学校教育を通して『チベット人意識』を育て、次世代につないで行く」と強調する。同首相は昨年、初めて父母220人を招き、亡命政府の今後の教育方針などを説明した。
 亡命政府はまた、中国から脱出してくる僧侶(最近は年間200人前後といわれる)に修業など再教育を施し、中国に送り返す。そのほか、共産党政権によって破壊されたチベット自治区の僧院の再建もあり、資金はいくらあっても足りない。
 米政府は昨年、国際開発庁(USAID)を通して使途自由な1000万ドル(約12億円)の開発援助を提供した。支出は米国内のNGO(非政府組織)やインドのNPO(非営利団体)など複数の団体を通して行われるので、政府の援助かどうか外見では分かりにくい。中国に対しとかく及び腰の我が外務省はこのやり方を見習ったらどうか。せめて同様の援助を政治主導で実行すべきではないか。(了)