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黒澤聖二

【第352回】フィリピン最高裁判決を受け法治国家は連帯せよ

黒澤聖二 / 2016.01.25 (月)


国基研事務局長 黒澤聖二

 

 1月12日、フィリピン最高裁判所は米比防衛協力強化協定(EDCA)が合憲であるとの判断を示した。同協定は2014年に結ばれたものだが、フィリピンの元上院議員らが上院の承認を得ない条約は憲法違反であるとして政府を訴え、発効手続きが停止していた。

 ●司法判断が政府を後押し
 判決の中で言及されているフィリピン共和国憲法第18条第25項は「議会が適正に承認した条約に基づくもののほか、外国軍隊の基地、軍隊、或いは施設は許容されない」と規定し、条約締結が適正手続きを踏むことを求めている。しかし最高裁は、新協定は既存の米比相互防衛条約及び「派遣米軍に関する協定」(VFA)の範囲内であるため、上院の承認を要しないとして訴えを退けた。妥当な判決と考える。
 この判決を受けて新協定が発効しても、米軍が再びフィリピンに恒久的な基地を設け、常駐することにはならない。EDCAには「(米軍は)永続的に駐留するのではなく、一時的に、巡回ベースで比軍基地を使用する」と規定されており、かつての在比米軍が完全に復活するのではない。ただし、物資の事前集積や関連施設の建設が米軍のアクセスを向上させることは間違いなく、軍事的な対中抑止効果のほか、今回の司法判断が政府の施策を後押しする効果も見逃してはならない。

 ●法律戦で中国に立ち向かえ
 判決文は、米比軍事協力に関する歴史的考察を述べたほか、フィリピンが常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴している南シナ海での中国の活動にも言及し、その脅威認識を示している。筆者が統合幕僚監部首席法務官だった時、ある国際法の国際会議でフィリピン軍法務総監は「フィリピンは法律戦で中国に負けない。日本も協力してほしい」と言っていた。国際的にも国内的にもフィリピンは中国との法律戦をしていると見るならば、今回の最高裁判決の意義は小さくない。
 この判決を受けて、ケリー米国務長官が歓迎の意向を示したことは当然であり、今後新協定を速やかに実行に移すべきである。さらに、近隣のインドネシアでは同国のナトゥナ諸島周辺の漁業権を巡り、中国との摩擦が生じる可能性も出ている。また1月22日、フィリピン民間航空局がスプラトリー(南沙)諸島のパグアサ島に航空管制機器を設置すると発表した。これらに対し中国側が反発すれば、南シナ海を巡る法的対立が激化する可能性がある。
 そうした事態にわれわれはどう立ち向かうべきか。南シナ海周辺国及び日米豪など関係国で、共通の法的関心を持つ国は多い。そうした国々で法治国家の有志連合を組み、共同歩調をとるならば、南シナ海で無法を繰り返す中国への強力な法的対抗手段になるのではないか。(了)