公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第353回】高速増殖炉こそ日本が取るべき道

岡本孝司 / 2016.02.01 (月)


東京大学大学院教授 岡本孝司

 

 発電と同時に燃料を生産する高速増殖炉は、冷却材に危険なナトリウムを使うため、ナトリウムに対する経験の蓄積と専門的な知識が必要である。一方、ナトリウムを使い、水を使わないため、福島の原子力発電所事故の様に全電源が無くなっても、物理現象である自然対流で勝手に冷えて安全が保たれる。ある意味、原子力システムとしては、福島原発の様な軽水炉よりも安全性が高いとも言える。また、厄介な高レベル放射性廃棄物が相対的に少なくてすむというメリットもある。50年後には、世界のエネルギーの主流になると考えられている。
 昨年、高速増殖炉のリスクを全く知らない、原子力の素人である原子力規制委員会は、たいへん恥ずかしい勧告を出した。高速増殖炉の安全とはほとんど関係のない保全のミスをあげつらい、文句をつけたのである。

 ●バックミラー裏側のごみ
 例えると、自動車のバックミラーの裏側にごみがついているのはけしからんと言っているようなものだ。自動車では、エンジンやブレーキがちゃんと動くことが重要である。バックミラーは後方が見える事が重要で、裏側にゴミがついていても運転の安全と関係がない。
 自動車は運転中に故障すると危険なので、2年に1回の車検で、重要な機器がちゃんと機能する事を確認する。車検では、安全上重要なものを集中的に検査し、重要でないバックミラーの裏は見ない。バックミラーの裏とブレーキを同じように検査すると、重要でないものをたくさん検査しなくてはならず、重要なブレーキの検査がどうしてもおざなりになる。
 規制委員会も、書類の山に埋もれて、重要なブレーキの故障を見逃すかもしれない。つまり、重要でないものを一生懸命検査する事は、リスクを高めてしまうのである。
 この様な経験を元に、信頼性重視保全(RCM)が世界中で使われている。リスクを考慮して、重要なものをしっかりと見るという保全である。航空機業界で開発され、日本以外の原発では普通に用いられている方法だ。その意味では、海外の原発の方が日本の原発よりも安全と言っても過言ではないかもしれない。
 安全な原発は国民の望むところである。リスクをしっかりと考慮した信頼性重視保全を導入し、中国や韓国と同じくらい安全な原発に早くなってもらいたい。
 
 ●安全技術開発で世界に貢献を
 規制委員会は、バックミラーの裏を見る事を勧告するよりも、ナトリウムを扱う特殊な技術、そして高速増殖炉の安全技術を勉強し、自らの実力を、せめて中国並みに上げていただきたいと強く思う。
 日本は、高速増殖炉「もんじゅ」の運転経験をしっかりと積んで、厄介なナトリウム技術や、高速増殖炉技術の開発をリードしていく事が重要である。それが、資源小国である日本の技術立国戦略であるとともに、世界に貢献していく大きな力になる。(了)