公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大野旭(楊海英)

【第367回】 日本は旧勢力圏の問題に積極的関与を

大野旭(楊海英) / 2016.04.11 (月)


静岡大学教授 大野旭(楊海英)

 

 先行きが見通せない国際情勢の中で、中国とどう向き合うかは西太平洋世界の死活問題となってきた。それは同時に、日本が旧植民地などかつて勢力下に置いた地域といかに関わるべきかの問題でもある。世界史的な視点から考えた時に、日本はもっと積極的に旧勢力圏の問題に関与すべきだ、と私は主張する。

 ●中国のモンゴル人弾圧
 まず、第2次世界大戦終了後、中国は日本の旧勢力圏を搾取し、抑圧してきた。近代的なインフラが整えられていた満洲(今日の中国東北部)と南モンゴル(今日の内モンゴル自治区)から資源を略奪し、日本が残した設備を破壊し、これら地域が健全に発展するための投資をしてこなかった。
 政治的には知識人を弾圧し、特に南モンゴルでは「対日協力をした罪」を口実にモンゴル人の大量虐殺を行った。その結果、内モンゴル自治区には深刻な民族問題が残った。日本は中国が犯した反人道の罪を追及すべきである。日本の旧勢力圏に対する中国の統治が失敗しているので、内モンゴルの民族問題は国際化しており、日本国民もこれに真摯に対応すべきではないか。
 次に、中国が南シナ海を自国の海だと主張しているのも、台湾を占領し、次いで沖縄県尖閣諸島を奪うためである。台湾の人々は日本統治時代の近代化を高く評価しており、横暴な中国流の支配を拒絶している。中国共産党と同じように、モンゴル、チベット、ウイグル人などが住む辺境地域を「中華の一部」と見なし、「抗日」を正統支配の根拠とする国民党政権による「二・二八虐殺事件」(1947年)を経験した台湾の人々は、日本と中国を比較できる国際的な視点を持っている。日本は国民党から政権を奪った民進党の蔡英文次期台湾総統を力強く支えていく必要がある。それは、日本自身の生命線を維持するためだけでなく、国際社会の平和構築への寄与でもある。
 第三に、かつて日本が併合した朝鮮半島においても、いま北半分を治める政権は心底、中国の干渉に嫌悪感を抱いている。そもそも、半島が分断状況に陥ったのは、中国が歴史的に南北離間政策を進めて大陸に都合の良い傀儡政権を北に建ててきたからである。

 ●英仏の旧植民地姿勢に倣え
 「日本は敗戦国だから、戦勝国の英国やフランスのように旧植民地や旧勢力圏の問題に関与できない」と謙虚に思う識者もいるだろう。しかし、控えめな態度は日本的な美徳であっても、国際社会では中国の横暴を抑止する防波堤にならない。
 日本が残した近代化の恩恵にあずかりながら、一向に正当な評価をせず、徹底した反日思想を国民に植え付けてきた中国の政治姿勢は不健全である。旧勢力圏の人々は戦後70年間にわたって日本と中国を比較してきた。日本は国際問題と化した旧勢力圏の問題に道義的にも関与すべきである。(了)