4月半ばに熊本県を襲った大地震で、安倍内閣の対応は素早かった。最初の地震発生5分後には官邸対策室を設置、その5分後には安倍晋三首相が被害状況の把握や応急対策に全力を尽くすよう指示した。既に2万人の自衛隊員派遣も決まっている。
●検討課題は日本版FEMAの設置
今回、官邸に設置されたのは「非常災害対策本部」である。これは「非常災害が発生し」(災害対策基本法24条1項)、国家的立場から災害応急対策を推進しなければならない場合に設置され、本部長は防災担当大臣である。
これに対し、平成23年3月の東日本大震災の折に設置されたのが首相を本部長とする「緊急災害対策本部」であった。これは今回以上の「著しく異常かつ激甚な非常災害が発生し」(同28条の2)、国の総力を挙げて災害応急対策の推進に当たらなければならない時に設置される。
今回の大地震は、災害の規模や程度からして、現行法の枠内で対処可能なケースに当たる。とはいえ、このような災害に備えて米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)のような組織を設置しておくことは検討に値する。
●必要な大災害への備え
問題は死者1万3000人、建物全壊が85万棟に及び、「国家存亡に関わる」(中央防災会議報告書)といわれる首都直下型大地震のような国家的緊急事態が発生した場合である。
菅義偉官房長官が4月15日の記者会見で質問に答え、大災害時などのため憲法に緊急事態条項を新設することは「極めて重い課題だ」と述べたことに対し、一部に「災害を改憲論議に利用するな」とか、現行法で対処でき緊急事態条項など不要といった声が上がっている。
中には、東日本大震災の折も、「ガソリン不足で緊急車両が走れない事例などなかった」と強弁する弁護士や、所有者の了解なしにガレキを処分すれば財産権の侵害に当たると考えて処分が進まなかった自治体が存在することを疑う記者もいる。
しかし、ガソリン不足により緊急車両に支障を来した例として、青森県庁のウェブサイトには「東日本大震災時は、石油燃料の供給が不足し、病院での救急対応や支援物資運搬車両の運行に支障を来すなど、県民生活に大きな影響が生じました」とある。また、当時の枝野幸男官房長官は記者会見で、ガレキ処理につき「津波で流された家財や自動車にはそれぞれ所有権があり、勝手に処分すれば財産権の侵害になりかねない」と答えている(朝日新聞デジタル2011年3月23日)。
もし現行の法律だけで首都直下型大地震などに対処できると本気で考えている者がいるとしたら、その知性と想像力の欠如を疑う。彼らにとって大切なのは「改憲阻止」のイデオロギーであり、実は国民の命を守ることなど大した問題ではないのだろう。反対派のデマに惑わされず、憲法を含む緊急事態法制の整備を進めることが、今こそ必要である。(了)