公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第386回】大政治家か否かは改憲姿勢で分かる

田久保忠衛 / 2016.07.11 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 7月10日投開票の参院選で、自民、公明両党などいわゆる改憲勢力が非改選議員を含めて憲法改正発議要件である総議席の3分の2を上回る議席を確保したから、与党の大勝と称しても間違いないのだが、それにしても奇妙な選挙だった。かねて改憲論者だった安倍晋三首相は「改憲を争点にしない」と消極的発言を繰り返し、対照的に野党民進党の岡田克也代表は目を三角にして「改憲勢力に3分の2の議席を与えると日本は危機に陥る」と怒りまくっていた。
 謎を解くカギは一つ。ポピュリズム(大衆迎合主義)だ。米共和党大統領候補に指名されることが事実上確定したドナルド・トランプ氏について、「ひどいポピュリストだ」などとテレビで批判していた政治家がいたが、ポピュリストでない政治家は存在するのか。
 
 ●憲法改正を口にしない与党
 与党大勝のニュースの中で改憲について聞かれた自民党の谷垣禎一幹事長は「国民投票で世論が二分されるようなことがあってはならないので、野党と十分に意見を交換できるようにしたい」と述べ、公明党の井上義久幹事長は「(公明党が主張してきた)加憲ができるよう慎重を期したい」と語っていた。何のことはない。改正を口にすると決してプラスにならない情勢なので、控えようとの姿勢に他ならない。一方、野党は改憲の是非で勝負をすれば勝てると読んでいるだけで、政争の枠内の小さな話である。
 昨年成立した安保法制を「戦争法」と決めつけ、「徴兵制が復活する」と論理をすり替えたデマゴーグがいた。日本国憲法など1ページも読んでいない人々が完全にだまされたまま、現在に至っている。安倍首相はそれを知っているから改憲を選挙の争点にするのを避けたのだと思う。安保法制によって、日本の思想状況は「60年安保」の時代に戻ってしまった。
 
 ●急転回する国際情勢
 ただし、国際情勢は急転回をし始めた。とりわけ日本にとっての大問題は、米国の次の大統領に誰が就任するにせよ、外国での戦いに米軍が参加することに米国民が白けているという事実だ。だからこそ、トランプ氏はアジアで日韓の両同盟国、欧州で北大西洋条約機構(NATO)をやり玉に挙げ、公平な負担をせよとがなり立てているのだ。
 1937~40年に英国首相を務めたチェンバレンは1938年のミュンヘン会議でヒトラーに譲歩し、一時は平和を愛する政治家として尊敬されたが、第2次大戦の発火で宥和主義者の汚名を着せられた。タカ派として冷遇されていたチャーチルはチェンバレンの後継の英国首相となり、救国の英雄として躍り出た。
 改憲に対する政治家の態度は、その政治家がポピュリストかステーツマン(大政治家)かを見分けるリトマス試験紙になりそうだ。(了)