フィリピンが中国との間で争う南シナ海の紛争に関する仲裁裁判の裁定が出た。7月12日の裁定は、中国が主張する「9段線」内部の歴史的権利を否定するなど、フィリピンの言い分をほぼ全面的に認めた。中国は予想通り裁定を「断固拒否」(外務省)したが、仲裁裁判所は中国に反論の機会を与えた上、ベトナムやマレーシアの主張も考慮するなど、公平中立に徹したと評価できる。
●中国の「9段線」主張を拒否
仲裁裁判はフィリピンが国連海洋法条約に基づき2013年1月に申し立てた。裁判所が海洋法条約付属書Ⅶの規定により組織され、裁判事務をハーグの常設仲裁裁判所が担当した。
中国が裁判に服さなかった法的根拠の一つは、海洋法条約第298条の規定に基づき、境界画定、歴史的権限、軍事的活動、法執行活動などに関する紛争を条約上の紛争解決手続きから除外すると中国が宣言していることである。中国は、訴えの全てが「本質的に領域主権の問題」(外務省)だから裁判自体が無効だと論じた。
しかし、裁判所は昨年10月、フィリピンの訴え15項目のうち、島礁の法的位置付けなどを問う7項目については明らかに上記に該当しないため、管轄権があると決定した。加えて12日の裁定では、昨年は管轄権の判断を留保した「9段線」内の歴史的権利についても、中国の議論に法的根拠はないとの結論を出した。さらに、中国による海洋環境の深刻な破壊も厳しく指弾した。
裁定は、中国が2012年にフィリピンから奪ったスカボロー礁と、既に人工島を建設した七つの礁について、①スカボロー礁とジョンソン、クアテロン、ファイアリークロス、ガベンの4礁は「岩」②スビ、ヒューズ、ミスチーフの3礁は高潮時に水没する「低潮高地」―と認定した。岩は領海を持つが、排他的経済水域(EEZ)を持たない。低潮高地は領海もEEZも持たない。岩や低潮高地は埋め立てによって形状がどんなに変わっても、領海とEEZを持つ法律上の「島」に転化することはない。
●自由主義海洋国は国際的圧力を
これまでも仲裁裁判を受け入れなかった国はあるが、中国ほど荒唐無稽ではない。まともな反証ができないから出廷に応じなかったと見られて当然だ。普通の国なら裁決に従うが、中国は裁判自体を認めず、判決も受け入れず、拘束力のない紙くず同然という。これでは既存の海洋秩序への挑戦状としか映らない。他方、訴えた側のフィリピンのドゥテルテ新大統領が、仮に中国から経済支援を引き出すために問題を棚上げすれば、南シナ海全域が赤く染まっていくだろう。
裁定は最終判断であり、法的拘束力がある。しかし、裁定を強制する手段はない。裁定を生かすも殺すも、当事国に加え日米豪など自由主義海洋国の対応次第と見る。これ以上の既成事実化を放置せず、自由で開かれた南シナ海のため、力の外交を急ぎ展開すべきだ。(了)