米次期大統領、ドナルド・トランプ氏の政権移行作業が進みつつある。共和党主流派陣営とも意思の疎通をはかっているのは、国際政治の安定という視点から安心材料である。
トランプ氏はすでに国防費の増額、海軍艦船の350隻体制、陸軍の54万人体制の構築にも言及している。超大国としての軍事力強化は、日本も歓迎するところだが、TPPはどうなるのか。そこにこめられた中国への対処、価値観の相違を重視した戦略思想は活き続けるのかどうか、まだ見定めるべき点は少くない。
●東シナ海では二進も三進もいかない
強いアメリカを唱えるトランプ氏の「国益第一」は、如何なる国にとっても当然のことだが、国益を犠牲にしてまで他国を助けることへの明らかな拒否は、アメリカが超大国であり続けても、実質的には普通の国になることを意味すると考えるべきだろう。
それでもアメリカは日本にとって最重要の国だ。よい形で日米協調を続けるには、日本も強くなければならない。アメリカ依存を減らし、互いに支えあえる体質へと、日本が変わらなければならない。
しかし現状は極めて心許ない。東シナ海では、日本はアメリカの支援なしには二進も三進もいかない。日中の軍事力の比較は明らかに中国優勢である。中国は、日本を軍事的に圧倒するに至ったとき、目的が達成されることを十分に認識している。
過去約3年間で日本政府は海上保安庁の巡視船7隻を新造した。中国は同時期40隻を新造した。空の守りに関しては、航空自衛隊が最新鋭機の第4世代戦闘機300機弱を保有するのに対して、中国は過去3年余で第4世代戦闘機380機を増産し、日中の航空戦力比は300機対810機となった。
海空におけるこの差は、中国が優位であり、率直に言えば、日本は成す術もない。さらなる懸念は、中国の宇宙戦略が進むにつれ彼らの軍事的優位がいっそう強化されることだ。彼我の力の差は時間の経過と共に拡大し続ける。
●防衛費増と改憲論議を急げ
危機以外の何ものでもないこの状況を日本人すべてが認識するところから、問題解決の糸口が生まれる。安倍晋三首相の地球を俯瞰した外交は、日本国の力がしっかりと整えられるときに、強い説得力を持つ。
そのための方法は二つ。まず、財政の力を活用する。現在の自衛隊予算は在日米軍経費を入れて約5兆円、実質は4.2兆円強で、GDPの1%をかなり下回る。これを早急にそして顕著に増やす。
次に、法の力を活用する。自衛隊の戦力は少ないうえに手足を縛られ真の力を発揮できない。法の障害を取り除くために憲法を一日も早く改正するのがよい。日本が国防の準備を整えるまで、中国の脅威は待ってくれない。
政治家が改憲論議を進めて国民と日本国の安全を担保するときだ。(了)