国家基本問題研究所は11月23日、都内で「トランプ政権と日本の決断」と題したシンポジウムを開き、櫻井よしこ理事長をモデレーターとして、萩生田光一内閣官房副長官、川村雄介大和総研副理事長、田久保忠衛国基研副理事長が熱弁をふるった。
年に1度の「会員の集い」の一環として開かれたシンポジウムには会員を中心に800人余の聴衆が詰めかけ、登壇者の深い知見にうなずき、メモをとる姿も目立った。が、新聞、テレビは、官房副長官の発言のうち、「民進党など野党の国会対応は田舎のプロレス」と形容した一部だけを切り取り、例によって失言問題に仕立て上げてしまった。
●野党の対応は田舎のプロレス
トランプ氏が大方の予想を覆して勝利した米大統領選挙は、米国内だけでなく、日本をはじめとする海外でも大きな衝撃を与えた。シンポジウムでは米欧を覆うポピュリズムの波動、安全保障問題の今後と日本の自主性、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の見通しなどについて、パネリストがそれぞれ専門的な立場から見解を述べた。
萩生田氏は、TPPなどの国会審議に関連して、「強行採決というのは世の中にない。採決を強行的に邪魔する人たちがいるだけだ」「ロープに投げたら返ってきて空手チョップで一回倒れるみたいな、田舎のプロレス、茶番だと思う。そろそろこういう政治の在り方は変えるべきだ」と発言した。
取材の朝日、毎日、読売、日経、産経各紙や共同、時事通信、NHK、テレビ朝日、フジテレビなどマスコミ各社がこの部分だけを一斉に伝えたため、民進党など野党は反発。萩生田氏は国会審議への悪影響を憂慮して、発言撤回の野党要求を受け入れた。
●世界の大局を見据えた報道を
萩生田氏は当然のことを言っているに過ぎない。だから会場から喝さいを浴びた。しかし、実際は急場しのぎのために発言を撤回するというパターンが繰り返され、野党を勢いづかせた。先月には山本有二農水相の発言が国会のTPP審議をマヒさせた。結局、野党は対案を出すこともなく、本格的な政策論争はますます遠のいた。メディアが低レベルの与野党対決を助長しているといえる。
失言や不祥事、政治家の人間関係などが中心の政治報道は、テレビのモーニングショーにも反映され、即席の評論家が芸能人のスキャンダルを扱うかのように井戸端会議並みの政治論評を行っている。メディアは、中国が膨張を続け、米欧が内向きになる中で、如何に日本が指導性を発揮していくかに留意した報道・論説を心がけるべきではないか。(了)