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田久保忠衛

【第415回】トランプ政権で米国の地位はさらに低下か

田久保忠衛 / 2016.12.26 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 2016年最大のニュースは「トランプ現象」だったと思う。戦後71年間の米国史における異常な変化で、これが国際政治、外交、経済、軍事、情報、技術などの分野にどのような影響を及ぼしていくだろうか。

 ●「絶対的衰退」への懸念
 冷戦終焉の少し前に、米エール大学歴史学教授のポール・M・ケネディが「大国の興亡」を書いて世界的なベストセラーになった。大英帝国の衰退を目の当たりにしてきたせいか、米国人は自国の存亡に関する検証を時に応じて積極的に試みてきたが、ケネディの著書もその一つだ。
 私は、米国の戦後史は次の三つのステップを踏んで現在に至っていると思う。①冷戦の一方の雄②唯一の超大国として抜きんでた存在③中国、インド、ブラジルなどの国力向上に伴う相対的衰退―の3段階だ。トランプ現象がなぜ生まれたかの検討は別にして、来年1月20日に発足するトランプ新政権についての心配の一つは、第四の段階が米国の「絶対的衰退」に向かうかどうかだ。トランプ氏が唱えてきた米国第一主義、孤立主義、保護貿易主義を遮二無二実行すれば、衰退に向かうことは誰にも予想できるだろう。
 醜悪とさえ言える個人攻撃に明け暮れた米大統領選挙戦を眺めていると、個人間で尊重されるべきモラルや、歴代の大統領が掲げてきた価値観である民主主義、法治、人権尊重などの灯火ともしびはどこかに消えてしまったのかとさえ思えてくる。

 ●政策不一致?の3G政権
 トランプ新政権の陣容の偏った特徴を指して、3Gと称する人がいる。元将軍(General)がフリン大統領補佐官(国家安全保障担当)、マティス国防長官、ケリー国土安全保障長官の3人、証券大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sacks)出身者がムニューチン財務長官、コーン国家経済会議委員長、バノン首席戦略官の3人、超金持ち(Gazillionaire=億兆長者)がティラーソン国務長官、ロス商務長官、デボス教育長官の3人だ。
 貿易政策をめぐって、大統領は自由貿易論者の国務長官と真っ向から対立する。ロシアへの姿勢では、国務長官と国防長官が親ロと反ロで正反対だ。大統領補佐官(国家安全保障担当)が人々をまとめる調整役に適しているかどうか疑問である。
 特に懸念されるのは、ロシアが行ったとされる民主党全国委員会のメール・ハッキング事件だ。ロシア軍情報機関が盗んだ情報をウィキリークス経由で米マスコミに流し、大統領選をトランプ氏有利、クリントン氏不利になるよう操作したといわれる。
 ロシアの操作は欧州右翼ポピュリスト政党の多くにも及んでいるらしい。トランプ氏に恨みを持つ米マスコミの動きは既に始まっている。トランプ政権で米国はもう1段地位を下げ、絶対的衰退に向かうのだろうか。(了)