日本のメディアも米英のメディアも一刀両断というわけにはいかないのだろう。戦後72年に及んだ国際秩序の枠組みをトランプ米新大統領はガラリと変えようとしているのに対して、トランプ政権内部には従来通りの思考で外交を続けようとする閣僚が少なくないのだから。
しかし、トランプ大統領は就任演説で、米国が戦後果たしてきた世界における指導的役割を、外国のために無駄な努力を払った、と読み替えてしまった。「他国の軍を助成する一方で、とても悲しいことに私たちの軍の消耗を容認してきた」「他国の国境を守ってきたが、私たち自身の国境を守るのを拒んできた」「何兆ドルの海外に費やす一方で、米国のインフラ(社会基盤)は荒廃し、衰退した」という表現は、彼が何を遺憾とし、何を望んでいるかを明確に物語っていると思う。
●敵対国と同盟国を同列視
その不満を解消するにはどうしたらいいか。敵対国、潜在敵国、同盟国、友好国などの優先順位をばらし、最大の敵対国になっているロシアとの関係を改善するだけで、米国の力はかなり節約できる。中国は経済面で米国に不都合な行動を続けているが、南シナ海進出など国際的にたたかれやすい弱点を持っているから、これをたたいて「ディール」(取引)をしたい、という発想だろう。あらゆる国を横一線に並べ、米国との二国関係で損か得かの計算に基づいて外交を進める考えだ。
米国の新指導者はなぜ軍事力増強の必要を説くのか。「他国の軍を助成する一方で、私たちの軍の消耗を容認してきた」との就任演説に真意がのぞいたと思う。敵対する国がなくなり、米ロ関係が改善されれば、米国は自国を守ることに専念する。同盟諸国つまり日本、韓国、北大西洋条約機構(NATO)諸国は「核の傘」を含めて米軍事力にただ乗りして社会福祉国家をつくり上げたではないか。今度は米国が新しい国家の建設に当たる番だ。米軍事力はそれでなくともオバマ前政権の強制財政削減措置で極端に圧縮されてきたから、軍備増強は当然だ、とのトランプ節が伝わってくる。
●米は衰退期に
戦後の国際政治の力学を急激に変更する理由は何か。トランプ大統領によれば、「政治家は栄えたが、雇用は失われ、工場は閉鎖された。支配層は自らを守ったが、国民をまもらなかった」ので、低賃金白人労働者を中心とする犠牲者を助けるのだ、ということになる。
偏狭で強烈な米国中心主義、保護主義、孤立主義だ。世界における米国の指導力はガクンと落ちる。米国はやはり衰退期に入っていると考えないわけにいかない。(了)