公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第444回】中国の宇宙能力や海上民兵を米国が警戒

太田文雄 / 2017.06.12 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 6日、米国防総省は2017年版の中国軍事情勢に関する年次報告書を公表した。外国メディアには、同報告書が着目した中国の宇宙開発を取り上げた記事が多い。5月に米国家情報長官が上院の委員会に提出した「米情報機関の全世界脅威評価」で、全28ページのうち約2ページを割いてロシアや中国などによる宇宙の軍事利用を取り上げていることと併せて今回の報告書を読むと、いかに米国が中国の宇宙開発を警戒しているかが分かる。
 
 ●外国メディアは宇宙開発に注目
 年次報告書の公表直後に出た外国メディアの中国の宇宙開発に関する報道を幾つか紹介すると、「中国の(通信傍受が不可能な)量子衛星が著しい進歩」(6日、ロイター)、「中国が月への有人飛行を準備」(8日、同)、「米政府の禁止をよそに米企業が中国の実験機材を打ち上げ」(7日、フォーリン・ポリシー)、「中国の宇宙船は米国との競争で優位に立てるか」(8日、サウスチャイナ・モーニング・ポスト)などとなっている。
 今回の年次報告書は、宇宙とサイバー分野を統括するため中国人民解放軍に新設された戦略支援軍に2ページを割いているのが目を引く(34~35ページ)。
 報告書は、昨年中国が宇宙ロケットの打ち上げを22回実施し、21回成功したと指摘して、「長征」ロケットや世界初の量子科学衛星、そして有人宇宙実験室の打ち上げを列挙した。特に有人宇宙実験室については「2018年前後の中国宇宙ステーションの主要モジュール打ち上げに備え、宇宙ステーション組み立ての技術を確認する」と書いている。
 さらに、衛星攻撃技術では、指向性エネルギーや衛星妨害装置の研究開発により「敵の目と耳を利かなくする」ことを企図していると警鐘を鳴らした。
 サイバー分野に関しては、指揮権の統一とサイバー資源の一元管理のため単一の軍組織(戦略支援軍)の下に集約していると記述している。
 宇宙やサイバー空間での戦いは圧倒的に攻撃側が有利である。一昔前にはなかった両空間での戦いに、日本は「専守防衛」で有効に対処できるのだろうか。
 
 ●「海上民兵」も初登場
 一方、7日のナショナル・インタレスト誌は「新しいペンタゴンの中国報告書は海上民兵の隆盛を強調」との記事を掲載した。確かに今年の報告書には、海上民兵が南シナ海に投入され、中国の威圧的な行動の一翼を担っていることが2本のコラム(12ページと56ページ)で取り上げられている。
 東シナ海の尖閣諸島周辺には1978年に100隻以上の武装漁船が、昨年8月にも約230隻の漁船が集結しているので、日本にとっても人ごとではない。
 仮にトランプ政権が「ブッシュ元政権で予算に計上され、オバマ前政権で中止された宇宙開発計画(コンステレーション計画)を復活させる。ハイテクの宇宙・サイバー空間の脅威は米国が対処するから、ローテクの海上民兵は日本が対応してもらいたい」と言ってきたら、日本政府はどうするつもりだろうか。(了)