6月3日、マティス米国防長官がシンガポールのアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で行った演説は、トランプ政権が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止のため中国に協力を求めても、南シナ海や台湾といった他の重要な地域問題で中国に対して米国の基本的立場を譲らないことを宣言したという点で重要な意味があった。
●南シナ海での行動を批判
アジアの平和と安全を脅かす「今そこにある危険」として、マティス長官が北朝鮮の核・ミサイル開発を真っ先に取り上げたのは当然である。しかし長官は、北朝鮮に開発を放棄させるため、低姿勢で中国に助けを請うたのではない。中国の習近平国家主席が4月にトランプ大統領に「全関係者が責任を果たさない限り核問題は早急に解決できない」と言ったことを紹介した上で、「言葉には行動が伴わねばならない」と述べて、中国に強い口調で北朝鮮に対する行動すなわち制裁強化を要求したのである。
そして、北朝鮮の脅威だけでなく、地域の平和と繁栄に対する他の挑戦も見落としてはならない、と長官は述べ、中国の南シナ海での人工島建設を批判した。①国際社会の利益を侵し、ルールに基づく秩序を揺るがす中国の行動を受け入れることはできない②人工島の建設と明白な軍事化は地域の安定を損ねる―という発言には、遠慮がない。
米海軍は5月下旬、スプラトリー諸島のミスチーフ礁に建設された人工島の近くで、中国に事前通告をせずに軍艦を通航させる「航行の自由」作戦をトランプ政権として初めて実施したばかりだ。この作戦では、南シナ海におけるオバマ前政権のそれまで4回の作戦と違って、米駆逐艦は通常なら領海と認定される島から12カイリ以内の海域で公海並みの海難救助訓練を行い、人工島建設によって中国は領海を拡大することはできないとの立場を鮮明にした。マティス長官は3日の演説で、今後も航行の自由作戦を続けると明言した。
さらに長官は「同盟国やパートナー国、あるいはそうした国々の安全に不可欠な能力を取引材料に使わない」と言明した。これは、同盟・友好国の安全を犠牲にして中国と取引することはしないと誓約したもので、歓迎すべきだ。
●台湾と協力を継続
今回の演説でもう一つ注目すべき点は、マティス長官がパートナー国との関与を継続すると語った中で、インド、ベトナム、シンガポール各国に続いて台湾に言及したことだ。長官は「国防総省は台湾およびその民主的な当局と協力する揺るぎない決意を引き続き持ち、(米国内法の)台湾関係法の義務に沿って(台湾に)必要な防衛装備を提供する」と語った。
米国の国防長官が一般の友好国と同列に並べて台湾との防衛協力を公の場で論ずるのは異例である。この発言を聞き逃さなかった聴衆の中国軍人の質問に対し、長官は「一つの中国」政策に変更はないと答えたが、独立志向とされる民進党政権の台湾に対する中国の軍事的威嚇を許さないとの強いメッセージを中国に送ったと解釈できる。(了)