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黒澤聖二

【第452回】日本も「航行の自由」に貢献せよ―南シナ海裁定から1年

黒澤聖二 / 2017.07.10 (月)


国基研事務局長 黒澤聖二

 

 南シナ海における中国の人工島建設などに関する仲裁裁判の裁定から7月12日で1年となる。フィリピンが申し立てた裁定の結果は当事国に対し拘束力があり、ほぼ中国の完敗だったが、中国は裁定を「紙くず同然」と切り捨てた。過去1年で何か変わったのか。

 ●強硬な中国、揺れるフィリピン
 6月29日、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が、衛星画像の解析から、南沙諸島の人工島で新たな軍事施設の建設を確認。戦闘機や移動式ミサイル発射装置を含む軍事機材をいつでも配置できると指摘した。中国は南シナ海の岩礁をしゅんせつして環境を破壊し、滑走路や砲台を建設して要塞化し、裁定を無視し続けている。
 一方の当事国フィリピンのドゥテルテ大統領は3月19日、同国が領有を主張するスカボロー礁をめぐり、「われわれは中国(の人工島建設)を止めることはできない」と語るなど及び腰だ。4月の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の議長としても、中国の拡張主義を非難せず融和の方向も示した。他方、昨年10月には米比軍事同盟の見直しを主張するなど、米国離れの姿勢も見え隠れする。
 米国はトランプ政権発足後初となる航行の自由作戦(FONOP)を5月25日、南シナ海のミスチーフ礁の12カイリ以内で実施した。その内容は、米海軍ミサイル駆逐艦「デューイ」による「落水者救助」訓練であった。人工島であるミスチーフ礁周辺を領海と認めないとの立場から、領海内で通常行う無害通航にしなかった。航空機の発着艦や、射撃訓練など、より刺激的な訓練も可能だったが、米軍はあえて控えめな訓練を選択した。
 7月2日には、2回目となるFONOPがパラセル(西沙)諸島トリトン島の12カイリ以内で実施された。米海軍ミサイル駆逐艦「ステザム」が無害通航を行った同島は、中国のほかベトナム、台湾が領有権を主張している。どこかの国の領海であることを認めているからこそ無害通航を実施した今回は、米軍のFONOPが中国の狙い撃ちでなく、どの国にも公平に対処することを示したものだ。これもソフト路線だが、外国軍艦の自国領海通過に事前許可を求める中国の過度の海洋権益主張を容認しないことを行動で示したことは評価できる。

 ●裁定を「紙くず」にしてはならない
 振り返ると、ドゥテルテ大統領の対中融和と対米離反、中国によるさらなる人工島軍事化により、裁定が無視された1年だったと言えるだろう。中国はスカボロー礁の埋め立てを取りあえず控えているものの、国際社会が中国の横暴な行動を認めないことを言葉や行動で示し続けないと、裁定は本当の紙くずになってしまう恐れがある。そのため米国は今後もFONOPを継続すべきで、その意思と能力を持つ唯一の超大国が米国であることに変わりはない。
 また米国に頼るだけでなくわが国も最大限努力すべきことは言うまでもない。実は「デューイ」は南シナ海でFONOPを実施した後、海自護衛艦「いずも」から洋上給油を受けている(6月8日、朝雲新聞)。わが国も航行の自由作戦に一部貢献していることを付言しておく。(了)