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冨山泰

【第453回・特別版】北朝鮮核問題、「中国頼み」は限界に

冨山泰 / 2017.07.10 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 ドイツのハンブルクで7月8日、米中首脳が会談した。トランプ米大統領が北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験など核・ミサイル開発の脅威拡大に対応する必要を強調したのに対し、習近平中国国家主席は「対話と協議」で問題を解決するよう改めて主張し、議論はかみ合わなかった。新聞報道によると、習主席は同日の安倍晋三首相との会談では、北朝鮮に対して各国が独自の制裁を科すことへの反対を明確にした。トランプ政権は中国が北朝鮮への圧力を強めることをなお期待しているが、「中国頼み」は限界に近づきつつあるのではないか。
 
 ●米長官「忍耐が必要」
 米中首脳会談に先立ち、ティラーソン米国務長官は記者団に対し、中国は北朝鮮に圧力をかける行動を取ったり取らなかったりで「むらがある」と述べ、不満を表明した。しかし、中国に対する「期待をまだ捨てていない」と言明した。同長官は、トランプ政権が試みているのは核問題の平和的解決へ向けて北朝鮮に圧力を強める「平和的圧力作戦」であって、北朝鮮が圧力に応えるようにするには「少し時間がかかる」とし、「ある程度の忍耐が必要だ」と語った。
 この発言は、中国による圧力強化を通じて北朝鮮を徐々に締め付け、非軍事的手段で核開発を放棄させる可能性をトランプ政権がまだあきらめていないことを物語る。
 中国とロシアが北朝鮮の核・ミサイル開発凍結と引き換えに米韓合同軍事演習の中断を提案していることについては、ティラーソン長官は交渉の対象になるのは「核計画の中止と撤回」であると述べ、核開発の現状容認を拒否した。
 
 ●体制変更も視野に
 中国は北朝鮮に対する国連制裁を完全に履行すると表明しても、それ以上の制裁を独自に行う意思はないようだ。これに対し、米国が中国に期待している措置は、北朝鮮の核・ミサイル開発に協力している中国企業の取り締まり強化に加え、北朝鮮に対する石油の禁輸、北朝鮮の外貨稼ぎの重要手段となっている北朝鮮出稼ぎ労働者の受け入れ中止など、幅広い。両者の溝は深い。
 6月21日の米中閣僚級による外交・安全保障対話が不調に終わったのを受けて、トランプ政権は米中関係の潮目が変わったと受け取れる措置を立て続けに取った。北朝鮮と取引のある中国の企業と個人への制裁第一弾の発表、トランプ政権で初めてとなる総額14億ドルの台湾向け武器売却の発表、同政権2回目の南シナ海における米海軍の「航行の自由」作戦の実施、である。
 北朝鮮が「対話と協議」により核・ミサイル開発を放棄することがまずあり得ないのは、誰もが分かっているはずだ。今や日本は米国とともに、国家の安全保障のため、北朝鮮の「体制変更」を念頭に置いた政策を実行すべき時ではないか。それは必ずしも軍事行動を意味しない。トランプ政権が習政権の協力に見切りをつけ、中国との関係悪化を覚悟した上で、北朝鮮と取引をする大規模な金融機関を含む中国企業に本格的な制裁を科すことも、そうした政策の端緒になり得る。(了)