公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

  • HOME
  • 今週の直言
  • 【第468回】慰安婦問題で問われるユネスコの存在意義
髙橋史朗

【第468回】慰安婦問題で問われるユネスコの存在意義

髙橋史朗 / 2017.09.19 (火)


国基研理事・明星大学特別教授 髙橋史朗

 

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に日中韓を含む8カ国の民間団体などが共同で登録申請をした「日本軍『慰安婦』の声」資料について、登録小委員会(RSC)は2015年の「南京大虐殺」文書に続き、国際諮問委員会(IAC)に登録を勧告した可能性が極めて高い。中国の外務省副報道局長は記者会見で、共同申請がユネスコ側からの奨励によって行われたことを確認している。

 ●「世界の記憶」登録の公算
 10月24日から開催が予定されているIACでユネスコのボコバ事務局長に対する勧告が最終的に決定されるが、RSCの勧告を覆すには相当の根拠がなければならない。その最大の根拠は、日本軍のために強制的に性奴隷にされたことを立証する資料とされるものの多くが、実際には慰安婦が公娼だったことを立証していることだ。
 政治的濫用から「世界の記憶」事業を保護するのに必要な枠組みとして、疑義が呈された申請案件の扱いで合意が得られない場合、関係団体の対話を継続すること等を明記した制度改革の最終報告が6月30日にボコバ事務局長に提出された。10月14日から開催されるユネスコ執行委員会で正式に決定される。
 共同申請された米国立公文書館(NARA)所蔵文書と同一の文書が含まれる「慰安婦と日本軍規律に関する記録」文書の登録をユネスコに申請した日本の保守系団体が8月23日、共同申請側との協議を要請する公開状をユネスコ事務局に送ったが、返答はなかった。
 両者が登録申請をしたNARA所蔵文書には日本政府が公開した文書も含まれているが、同一文書から導き出される「強制的な性奴隷」をめぐる解釈は完全に異なっている。「世界の記憶」事業は歴史の審判や解釈を行うものではないとの基準に照らせば、ユネスコには公正中立的な取り扱いと透明な審査が求められる。

 ●日本に必要な毅然たる対応
 共同申請が日本軍の慰安婦制度を「ホロコースト(ナチスのユダヤ人大虐殺)に匹敵する戦争悲劇」と決め付けていることは、歴史の審判や解釈を行わないという基準に明確に違反する。このような不当なプロパガンダにユネスコがお墨付きを与えるようなことがあってはならない。
 共同申請に加わっている英帝国戦争博物館の所蔵文書にも「強制的な性奴隷」を客観的に立証する資料はないことが判明した。「強制的な性奴隷」を立証する資料として申請された文書に明白な疑義が呈されている。
 ユネスコがこの疑義を黙殺し、制度改革の最終報告に盛り込まれた「関係団体の対話」要請にすら応じないのは、「世界の記憶」事業が加盟国の「対話と相互理解に貢献するものである」ことを確認した第36回ユネスコ総会決議に違反し、ユネスコの信頼性を著しく損ねる。平和友好と相互理解の促進というユネスコの設立目的に反して混乱と対立を煽るならば、ユネスコの存在意義が厳しく問われる。日本政府は毅然とした対応を取るべきだ。(了)