9月11日、国連安全保障理事会が北朝鮮に対する新たな制裁決議を採択した。北朝鮮の6回目の核実験からわずか1週間後という異例の早さだ。安保理は8月5日にも制裁決議を採択しているから、1カ月も経たずに再び決議を採択したことになる。
中ロとの協議の結果、米国の原案より制裁内容が緩くなったが、8月の制裁に今回の制裁が加わると、北朝鮮は多額の外貨収入を断たれる。
●貿易収入の8割が消える
韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によると、2016年の北朝鮮の輸出は28億ドルで、内訳は石炭など鉱物燃料12億ドル、鉄鉱石2億ドル、魚介類2億ドル、衣類7億ドル、その他5億ドルだった。そのうち、石炭、鉄鉱石、魚介類の合計16億ドルは8月の制裁の対象となり、今回衣類が加わったので、北朝鮮は合計23億ドル、貿易による外貨収入の83%を失うことになる。また、新規契約が禁止された海外労働者は、現在9万人が年間5億ドル程度を稼いでいるというから、現行の契約が切れる数年後にはこの収入も消える。
米国は当初、原油と石油精製品の北朝鮮向け輸出を禁止する厳しい決議案を準備したが、最終的には、原油は前年の輸出量を上限とし、ガソリンや軽油など石油精製品は200万バレルまで輸出量を削減することとなった。米国関係者によると、北朝鮮は原油を年間400万バレル、石油精製品を450万バレル輸入しているから、今回の制裁でガソリンなどの半分が入らなくなる。
●米朝チキンレース
今回の制裁は中ロの抵抗で緩和されたが、それでも上記のようにそれなりに厳しいものとなった。北朝鮮の貿易の9割を占める中国が制裁をきちんと実行するか、そして北朝鮮がこの制裁に耐えられるのかが今後の焦点だ。
北朝鮮では4月から制裁に備えた石油備蓄が始まり、それにつられてガソリン価格が高騰している。核ミサイル開発、金一族の贅沢な暮らし、独裁体制の維持などに必要な外貨を管理する朝鮮労働党39号室の統治資金はすでにかなり減っており、在外勤務の外交官には本国から給与や経費がほとんど届かないだけでなく、外貨を上納せよという命令が頻繁に下っているほどだ。
金正恩は8月の制裁決議を見て、核とミサイルの実験をどんどん行って軍事的緊張を高め、米国と最終談判するという短期戦の方針を固めたようだ。近く、大陸間弾道ミサイル(ICBM)をハワイと米本土の間に着弾させる実験をするとか、米国の軍事攻撃に備えて日米韓へのサイバー攻撃を準備しているという情報もある。
米朝間のチキンレースは続く。しかし、島田洋一福井県立大学教授が言う通り、トランプ(米大統領)は頑丈なダンプカー、金正恩はバイクのようなものだ。正面衝突すれば金正恩は必ず死ぬ。独裁者は自分の命が危険にさらされるときにだけ譲歩する。しかし、そのときになってもウソをつく。
わが国は米国と歩調を合わせて対北朝鮮圧力を強めながらも、拉致被害者全員の救出という最優先課題を絶対に譲ってはならない。嵐が来た。その中で国と国民を守るために官民挙げて全力を尽くすときだ。(敬称略)