北朝鮮危機の下で安倍晋三首相は衆院解散を選択した。野党は即座に「大義がない」「政治空白をつくる」と批判を浴びせた。すると朝日新聞が先回りして、学校法人森友学園への国有地払い下げ問題や加計学園の獣医学部新設問題の「疑惑隠し」だと強調し、野党に政権攻撃の手本を示した。それまで野党は、森友・加計問題で「衆院を解散して信を問え」と主張してきた手前、すぐに使えないフレーズだったはずだ。だが、朝日の後押しを得てからは、民進党も共産党もこれに和した。議員にとって選挙は職を賭けた「弾丸なき戦争」だから、理屈はどうとでもなるのだろう。
●核危機が促した解散・総選挙
首相の解散表明はむしろ野党に批判の口実を与え、必ずしも得策ではないはずだ。しかし、日本を取り巻く戦略環境は、得策か否かといった悠長なことを言っていられる状況にない。解散の大義を逆説的に言えば、北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返した最中でも、日本国民をどう守るかを語らず、「モリ・カケ」追及に血道を上げていた議員を退場させることに尽きる。
トランプ米政権は、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成間近であり、1年以内に核の小型化を終えて危機は深まるとみている。実際に、米国防情報局(DIA)は7月末、北が「ICBM級を含む弾道ミサイルで運搬する核弾頭を生産した」との分析をまとめており、朝鮮半島危機はこれからますます高まることを示唆している。
だとすれば、日本を取り巻く国際情勢は、危機がピークに達する前の早めの解散・総選挙を日本に促していよう。米軍による軍事作戦があるとすれば、北の核施設やミサイル基地を破壊し、38度線沿いに配備の砲1万を一気に無力化する米海空軍の増派に、最低1~2カ月はかかる。軍人家族を含む米国市民20万人の韓国からの退避にも2カ月かかる。
●議論すべき対北抑止
選挙戦では、日米同盟による対北抑止の方法を徹底して議論すべきである。日本は核を「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を堅持したままで、この危機を乗り切れるのか。核を搭載した北のICBMがニューヨークに到達可能になっても、米国の日本に対する「核の傘」は効力を持つのか。
物理的に日本が「独自核」を保有できないのなら、「米国核」のシェアリング(共同運用)はあり得るのか。これらの核論議によって国論が分裂し、政治コストが高まるとするなら、核に代わる抑止力とは何なのか。現憲法下で通常兵器による敵地攻撃力を持つべきか。あるいは憲法を改正して、通常兵器による万全の抑止力を得て、戦争を防ぐ道に踏み出すべきなのか。日本国民が決断するまでの時間的余裕はわずかしかない。
候補者はそれぞれの選挙区で、有権者に使命感をもって自説を訴えるべきであろう。その先は、現憲法の枠内で国民の繁栄と安全を守ることはできないとの審判につながる。野党はそれでも、島国の楽園にあって「モリ・カケ」隠しという牧歌的な政争に明け暮れるのだろうか。国民を守り切る意思のない選良は願い下げである。(了)