公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大岩雄次郎

【第14回】返済猶予法案は、問題先送り法案だ

大岩雄次郎 / 2009.11.24 (火)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

20日未明、民間金融機関に中小企業向け融資の返済猶予を促す「中小企業者等金融円滑化臨時措置法案」(モラトリアム法案)が、強行採決によって衆院を通過した。この法案は、問題の先送りに過ぎず、日本の市場経済に対する内外の信頼を毀損するリスクを考えた場合、その弊害の大きさは計り知れない。

市場を欺くことはできない
この法案は、①民間金融機関に対し中小企業向け融資の返済条件の変更や借り換えなどに応じる努力を求める、②借り手が破綻した場合に銀行の貸し倒れ分の一部を公的に保証する―などと定めているが、この制度を利用する中小企業がどれほどあるだろうか。利用者は自らの信用リスクを、貸し手は貸し倒れのリスクを事実上公表することになる。市場は、この法案が問題の解決にならないことを決して見逃さない。これは、日本の金融システムの信用を低下させる以外の何物でもない。

この法案は、前政権の二番煎じでしかない
中小企業金融については、既に前政権時から、民間金融機関に中小企業と長期的かつ親密に取引するよう促す「リレーションシップバンキング」や、返済条件変更を盛り込んだ「検査マニュアルの緩和」などの対策が採られている。新内閣の組閣と同じ日に、日銀は「企業の信用リスクが高まると、貸出金利は上昇する。そうならないのは、中小企業向け貸し出しなどは信用保証制度をはじめとする公的支援に支えられているためだ」という「金融システムレポート」を公表し、これ以上の公的支援の弊害を訴えたが、これは傾聴に値する。場当たり的な民間金融機関への介入は自由な市場経済を損なう危険がある。この種の緊急課題には、本来、政府系金融機関や政府の信用保証の枠組みなどの限定的な公的支援で対応すべきである。中小企業問題を民間金融機関へ実質的に丸投げするこの法案は、長年の懸案であるこの問題の解決を先送りし、抜本的な対策を講じてこなかった政府・金融庁にとってのモラトリアムそのものである。

裁量行政の復活を許してはならない
この法案の核心は、法案自体より法案に合わせて金融庁が定める「金融検査マニュアルの改訂版」の内容にある。民間金融機関の社員の人事評価への介入や、貸し付け条件の変更を求める企業に対する経営改善計画策定の義務付けなどが検討されているが、これは不透明な裁量行政への逆戻りである。護送船団・裁量行政を排し、透明で分かりやすい金融行政を行うことこそが、金融システムの信頼を得る唯一の方法である。(了)
 

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第14回:返済猶予法案は、問題先送り法案だ(大岩雄次郎)