公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第13回】懸案先延ばしの日米首脳会談

田久保忠衛 / 2009.11.16 (月)


国基研副理事長・杏林大学客員教授 田久保忠衛

案の定と言ってよかろう。11月13日夜開かれた鳩山由紀夫首相とオバマ大統領の日米首脳会談で、沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題は結論が先延ばしにされた。13年間引きずってきてようやく日米合意案通りに落ち着くと思ったら、さにあらず。民主党政権で「県外、国外」移設、さらに岡田克也外相が嘉手納基地への統合について「案になるかどうか検討する」と言い出してから、問題はこじれたままだ。この種のテーマが最高首脳同士で決められなかったのは、戦後の日米関係でも異例だろう。

鳩山政権は「反軍事」で一貫
普天間移設のほかに両国間には、インド洋における海上自衛隊の給油活動停止、日米地位協定や思いやり予算の見直しなど、米国にとっては愉快でない問題が幾つもある。これらは別個に解決していけばいいというのが官僚的な解決方法だろうが、実は全部つながる構造的な性格を持っていると考えられる。ズバリ言えば、鳩山政権は軍事同盟である日米安全保障条約から「軍事」のにおいのする要素を薄めようとしていることに気付く。いろいろな理屈を付けてはいるが、インド洋から手を引き、思いやり予算を手直しし、普天間飛行場の移設計画を変えようとの試みは、皆一脈相通ずるところがある。

国際的にはアフガニスタンへ5年間に50億ドル、パキスタンへは10億ドルの民生支援を鳩山首相は決め、オバマ大統領はひとまず感謝の意を表明した。時計の針は20年近く前に逆戻りしたのだ。1991年の湾岸戦争以来、米国をはじめとする有志連合諸国が、血も汗も流さずカネで国際貢献をしようとする日本を「小切手外交」とさげすんだ時代へ戻ろうというのだろう。当座は喜劇で笑って済ませるかもしれないが、米中両国の間で日本は小国に成り下がる。

かき消される良識論
国内的には、せっかく落ち着きつつあった普天間飛行場の移設問題に火を付けてしまった。岡田外相が日米合意の辺野古への移設の代わりに嘉手納基地への統合などと10月23日から口走り始めたので、沖縄県民が「県外」移設を実行せよと騒ぎだした。ごうごうたる政府批判の声は辺野古で決着させようとしてきた仲井真弘多県知事や島袋吉和名護市長を取り囲み、2人に代表される良識論がかき消されかねない勢いになってきた。これでは「県外」「国外」の原則論が復活する。反米、反基地運動のプロたちが思いがけない「好機」に躍り上がっている。

日本の今後はどうなるのだろうか。(了)
 

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第13回:懸案先延ばしの日米首脳会談(田久保忠衛)