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田久保忠衛

【第477回】アジアの問題を米中に仕切られていいのか

田久保忠衛 / 2017.10.30 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 トランプ米大統領は11月3日から14日まで12日間にわたって日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンのアジア5カ国を訪問する。米国にとって日本、韓国、フィリピンの3カ国は同盟国、ベトナムは新たな「戦略的パートナー」だ。そこにアジアの大国としての中国を加えたのは、朝鮮半島の今後に中国が重大な役割を担うと米国が判断しているからだ。米政府は中国に圧力をかけ、無謀なミサイル・核実験を繰り返す北朝鮮を抑えようと試みてきたが、その成否は今回のトランプ訪中ではっきりするだろう。

 ●キッシンジャー氏が助言か
 そう思える理由の一つは米誌ニューズウィークの10月16日の報道だ。中国に強い人脈を持つキッシンジャー元国務長官が10月に入ってからホワイトハウスに招かれ、中国と「大型バーゲン」をすることについて助言をしたと見られる。中国が北朝鮮に核計画を断念させた場合、米国は見返りとして北朝鮮を外交的に承認し、経済援助を北朝鮮に提供し、最終的には在韓米軍2万9000人の削減に同意する、という内容である。
 米政府部内では対北強硬策を主張するトランプ大統領と話し合いを重視するティラーソン国務長官の考え方が対立し、国務長官辞任説まで飛び出したが、大型バーゲンは北朝鮮のレジームチェンジ(体制転換)を求めないとの国務長官の主張が土台になっているという。
 二つ目の理由は、当のキッシンジャー氏が8月11日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに書いた長文の論考だ。言わんとするのは、米中が朝鮮半島の非核化に完全に合意した上で、その後の北の体制をどうしたらいいかについても了解に達する必要がある、ということである。トランプ大統領のアジア訪問を前に、キッシンジャー氏がこのように大胆な主張をする背景には何があるのか。

 ●中国の罠にはまるトランプ大統領
 北京での米中会談が朝鮮半島の平和にとっても日本の安全保障にとっても望ましいのは事実だが、長期的な見地からは別の思考が必要だろう。アジアとりわけ中国周辺地域のトラブルは米中間の話し合いなしでは解決できないという既成事実作りが進んでいくのではないか。それこそ中国が米国に異常なほどの熱意で呼び掛けていた「新型大国関係」にほかならない。トランプ政権は中国のわなにはまりつつある。
 日米中の関係を戦前から調べてみれば明白だが、この3国関係が同時に良好だった時代はない。日本の国益は短期と長期に分けて判断しないと、日本は気づかぬうちにアジアの孤児になりかねない。(了)