公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

屋山太郎

【第476回】9条の硬い殻を破れる可能性が出てきた

屋山太郎 / 2017.10.23 (月)


国基研理事・政治評論家 屋山太郎

 

 「一強多弱」の状況は今回の総選挙で変わらなかった。しかし、野党第1党だった民進党が希望の党と立憲民主党に分裂したことによって、政界の在り方や国会運営の手法が基本的に変わるだろう。何でも反対という共産党主導の「全野党共闘」は終焉した。恐らく立憲民主党と共産党の共闘は続くだろうが、これまでとは全く違う様相になるだろう。憲法改正をめぐる国会の審査会は審議を始めるに違いない。

 ●国会運営、様変わりか
 希望の党の小池百合子代表(東京都知事)の「選別」が失敗のもとだという評価が定着しているようだ。しかし、選別が民進党を二つに引き裂いた結果、政界の構図は一気に明確になった。保守(自民、公明)、中道保守(希望、日本維新の会)、左派(立憲民主、共産)の3極に分立することになった。
 立憲民主党の枝野幸男代表は「集団的自衛権行使容認が憲法違反だから、これを前提にした憲法改正は認めない」という立場だ。「護憲」の共産党と共に、憲法改正には応じないだろう。憲法改正問題はこれまで、民進党全体を左派が取り込んで、政界を2分しているが如くだった。
 民進党の分裂によって、今後の国会運営は様変わりするのではないか。維新と希望は今回、選挙協力を行って、新しい極として台頭してきた。維新の松井一郎代表(大阪府知事)は「審議自体を拒否するようなことはしない」と明言している。民進党代表の前原誠司氏もかねて同様の主旨を述べている。前原氏の入党可能性も含めて希望の陣容が今後変わることはあっても、新しい極が共産党と共闘する可能性はない。
 全野党共闘は「全野党」というカモフラージュで共産党が一方的に得をしてきた。今回それが失敗したおかげで、共産党の議席はほぼ半減した。民進党指導部がいかに硬直していたか、その結果、国会の機能をいかに損ねていたかが分かるだろう。この硬直した国会運営が破綻した結果、国会内における議論は活発になるだろう。

 ●国民が対北強硬政策受け入れ
 憲法9条改正について公明党は慎重だが、希望や維新が改正審議に参加することによって、9条の硬い殻が破られる可能性がある。新しく誕生した希望は憲法改正・安保法制容認の踏み絵を踏んだ人たちの政党だ。
 北朝鮮問題は年内にも危機を迎えかねない。その脅威を一顧だにしない鈍感さが政界の一強多弱を続けさせていると言っていい。安倍晋三首相は自民党内のタカ派と見られているが、交代の声が出ず、既に自民党総裁3選を支持する声が出ている。これは安倍氏の思想が自民党の常識となり、その常識を国民が受け入れている証拠だろう。(了)