公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

髙池勝彦

【第484回】NHK訴訟の最高裁判決は不当

髙池勝彦 / 2017.12.11 (月)


国基研副理事長・弁護士 髙池勝彦

 

 12月6日、NHKの受信契約に関する最高裁大法廷の判決が出た。この事件は、テレビを設置した男性が、NHKから受信契約を締結して受信料を支払ふやう要求されて拒否したため、訴へられたものだ。平成23年のことである。私がこの男性の弁護を担当した。
 放送法64条1項は、テレビを設置した者はNHKと「受信についての契約をしなければならない」と定めてゐる。この規定は、視聴者にNHKとの契約を強制するものかどうか、強制するとしたら、契約の自由、租税法定主義に反し、憲法違反ではないか、契約はいつどのやうに成立するか、いつまでさかのぼつて受信料を請求できるか、といふ論点が争はれた。

 ●受信料強制は違憲の疑ひ
 多くの学者は、放送法の立法過程からも、違反について罰則がなく、「受信料を払はなければならない」との文言でないことからも、これは訓示規定(努力規定)であり、強制できないと解釈する。強制すれば、契約自由の原則に反し、また租税のやうに強制徴収することになり、租税法定主義に反するからである。私もさう主張した。
 最高裁は、契約を強制できると判断した。判決によると、①放送法は「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保する」ことを目的としてをり、その目的実現のため民間放送とNHK(公共放送)の二本立て体制をとつてゐる②NHKが広告収入によって運営される民放と違つて、財源をテレビ設置者の受信料で賄ふことにしたのは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響が及ばないやうにしたからである―といふ。
 しかし、「放送の不偏不党」などが要求されるのは民放も同じであつて、放送法の目的をもつてNHKとの受信契約の義務づけを正当化することはできない。しかも、税金と同じやうに受信料を徴収できる権限を国会の議決もなしに許すのは憲法違反であると言はざるを得ない。

 ●何十年分の請求も可能
 最高裁は、NHKが契約を申し込んだら自動的に契約成立を認めるべきであるとのNHKの主張を退け、契約を拒否する者に対しては、契約の承諾を求める裁判によつて契約を強制すべきであるとした。従つて、契約は承諾を命ずる判決の確定時に成立するとしたが、問題は、判決が確定すれば、テレビを設置した時にさかのぼつて受信料を請求できると判断したことである。さうすると、契約締結中の受信料不払ひの場合は5年分しか請求できない(5年以前の分は請求権が時効で消滅する)のに対し、未契約の場合には何十年分でも請求できることになり、余りに不当である。
 放送法は、NHKしか放送事業者がなかつた占領下に制定された法律である。現在は多数の民放が参入し、視聴者はどれを見るか選択できる時代なのである。NHKにとつても、財政基盤を確保するために抜本的な検討が必要な時代である。最高裁判決は、憲法違反の疑ひを残したままの取扱ひを公認したことによつて、それをしばらく続けさせることになつた。(了)