私は最近、北朝鮮軍人による中国少数民族ウイグル人の武装勢力への武器密輸未遂事件があったという情報を中国筋から入手した。中朝関係が悪化の一途をたどっているのはこの事件の影響も少なからずあるという。事件の詳細は以下の通りだ。
●大量の銃砲と弾を押収
9月8日午前1時20分ごろ、中国吉林省長白県で朝鮮人民軍の武器を積んだトラック2台が捕まった。深夜に北朝鮮と密貿易をしようとして現場近くに偶然いた中国人密輸商が不審なトラックを目撃して当局に通報したという。密輸商は多額の報償金を得た。
現場で4人のウイグル人が捕まり、別の3人のウイグル人は逃走した。北朝鮮人は捕まっていない。北朝鮮軍人が現場にいて逃げたのか、すでに現場にいなかったのかは定かでない。捕まった者らによると、武器を提供した軍人は北朝鮮の慈江道中江から来て、平安北道朔州郡と碧潼郡の間の地点で船に武器を積み、中朝国境の鴨緑江を渡ってきたという。
現場で押収された朝鮮人民軍の武器は、拳銃32丁と弾20箱、AK47自動小銃150丁と弾40箱、機関銃37丁と弾60箱、アシボ銃(旧式手動銃)130丁と弾80箱、82ミリ迫撃砲10門と弾20箱、手榴弾20箱だ。
中国側は朝鮮人民軍第8軍団の仕業と推測し、北朝鮮に合同捜査を要求したが、北朝鮮側は独自に捜査するとして拒絶した。この事件は現在、中国の国家安全局(政治警察)が担当しており、現場付近では厳しい箝口令が敷かれているという。
●事件後に中国が制裁強化
これだけ大量の武器が持ち出されたのだから、少なくとも軍団長レベルの軍幹部ぐるみの犯行だった可能性は高い。中国当局との武力闘争を行うウイグル人武装勢力に武器を売ることは、中国共産党にとって許しがたい反中行動だ。ウイグル人らはこの武器を使って10月に北京で開かれた中国共産党大会でテロ事件を起こそうとしたのかもしれない。北朝鮮の独裁者金正恩までもが密輸を承知していた可能性は低いだろうが、北朝鮮が合同捜査を拒否し、現在まで責任者処罰を行っていないことだけでも、中国国家主席・習近平の怒りを買っているはずだ。
時系列的に見ると、9月3日に北朝鮮が6回目の核実験を行い、8日に事件が起き、11日に国連安保理で中国も賛成して対北朝鮮制裁決議が通った。中国は9月以降、国連制裁を厳格に実施している。全ての在中北朝鮮企業や合弁企業は来年1月上旬までの撤収を命じられ、続々と労働者が帰国している。11月末には中国の丹東で一番大きい朝鮮食堂、高麗館も廃業し、200人の女性従業員が帰国した。関係筋によると、中国は国連制裁を超えた独自制裁としてパイプラインでの原油供給を年間50万トンから35万トンへ3割削減したという。
事件後に中朝関係が最悪となる中で、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星15号の発射を受け、国連安保理で審議されている追加制裁で、米国が求める石油と石油製品の全面禁輸に中国が拒否権を使わない可能性も十分ある。(敬称略)
(注:武器禁輸密輸事件は、ウイグル側などからは確認されていません。)