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榊原智

【第540回・特別版】誤って伝えられた米大統領の「真珠湾」発言

榊原智 / 2018.09.03 (月)


産経新聞論説副委員長 榊原智

 

 トランプ米大統領が安倍晋三首相に語った「真珠湾」発言が、誤って伝わっている。その誤解を解くフジテレビの極めて重要な報道を紹介したい。
 誤って伝えられた発言とは、次のようなものだ。
 米紙ワシントン・ポスト(電子版)が8月28日、トランプ氏が6月に安倍首相と会談した際、「真珠湾攻撃を忘れないぞ」と牽制してから通商問題の協議を始めたと報じたのである。

 ●ワシントン・ポストの報道が拡散
 安倍・トランプ関係は良好だと思われてきた。それを否定するかのようなニュースは驚きをもって受け止められた。
 日本海軍による真珠湾攻撃は、米国ではだまし討ちとの見方が強い。米国の大統領が真珠湾攻撃に言及することは、対日非難の文脈で持ち出したと思われても仕方がない面はある。
 ワシントン・ポストもそうだが、日本の報道各社も、トランプ氏が真珠湾攻撃を持ち出して日本の通商政策を激しく批判し、安倍首相に譲歩を迫ったと受け取った。
 しかし、そうではなかったのである。
 フジテレビの「プライムニュース イブニング」(8月29日)が、首相官邸筋の話として明かした、トランプ氏の発言は次のようなものだった。
 「アメリカが日本の防衛費を負担して、対日貿易赤字も解消されなければ、ダブルパンチになる」
 「真珠湾攻撃を忘れていない。日本も昔はもっと戦っていただろう。日本も周辺国ともっと戦うべきだ」
 これらの発言が、真珠湾攻撃を日本の卑怯な振る舞いという意味合いで用いていないのは明らかだ。

 ●親しき友人への忠告だった
 安倍首相は9月1日の産経新聞とのインタビューで、ワシントン・ポストの報道を「全くの誤報だ」と否定した。首相はトランプ氏の発言内容を説明していないが、フジテレビの報道を勘案すれば、トランプ氏が言いたかったことはこうであろう。
 《かつて日本は、真珠湾まで殴り込みにきたほどの軍事強国だったではないか。日本は今、北朝鮮や中国の脅威に直面しているが、なぜ昔のように毅然とした姿勢で立ち向かわないのか。防衛費はもっと増やしたほうがいいのではないか。》
 良好な関係にある同盟国日本に対する問題提起であり、友人に対する忠告である。
 それが、日本を非難する発言だと伝えられたのだから極めて残念なことである。
 トランプ氏は昨年、北朝鮮の弾道ミサイルが日本列島上空を飛び越えた際に日本が迎撃しなかったことから、「サムライの国なのに理解しがたい」と語ったとされる。
 日本が防衛力を充実させ、自国防衛はもとより、インド太平洋地域の平和と安定にも力を尽くすことを、盟邦米国の大統領としてトランプ氏は期待しているであろう。
 いずれトランプ氏はこれを日米協力の重要課題として正面から問いかけてくるはずだ。ただ、日本はそれを待つことなく、米国と手を携えて地域の平和に責任を持つ国として行動するよう努めたほうがよい。12月に「防衛計画の大綱」を改定する今年を、その第一歩を踏み出す年にすべきである。(了)