米国の大統領は再選されるとレームダック(死に体)化が始まり、2期目半ばの中間選挙を過ぎるとそれが加速する。自民党総裁に3選され、今の規定では4選がない安倍晋三首相の場合はどうか。総裁選前にある側近が首相に、レームダックにならないためにも任期途中で退陣する可能性を聞いた。首相は「最後までやり抜く」と言い切ったという。
●「戦後日本外交の総決算」
首相の決意を示したのが当選後の9月20日夕に自民党本部で行われた記者会見だった。
「すべての世代が安心できる社会保障改革、戦後日本外交の総決算、そして制定以来初めての憲法改正。いずれも実現は容易なことではない。いばらの道であります。しかし、党内の大きな支持をいただき、これから3年、強いリーダーシップを発揮できる」
「戦後日本外交の総決算」として、安倍首相が取り組むのが北朝鮮による拉致事件の解決と、ロシアとの平和条約交渉だ。
首相は会見でも「何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、私自身が金正恩朝鮮労働党委員長と向き合わなければならない」と述べ、日朝首脳会談の実現に強い意欲を示した。すでに腹心の北村滋内閣情報官を北朝鮮側と接触させるなど、水面下で協議を始めている模様だ。首相は平成14年9月、小泉純一郎首相と金正日朝鮮労働党総書記(いずれも当時)による平壌での初の日朝首脳会談に官房副長官として同行した。拉致問題はその会談以来、前進していない。
拉致被害者家族は高齢化しており、一日も早い解決が望まれる。それでも焦ることなく、米国と歩調を合わせ、全被害者の即時帰国に向けて粘り強く交渉することが求められる。
●水面下で日露平和条約模索
同様に、側近らを通じてひそかに協議を行っているのがロシアとの平和条約交渉だ。9月の「東方経済フォーラム」で、プーチン・ロシア大統領は「まず平和条約を締結しよう。年末までにいかなる前提条件も付けずに」と提案した。日本側の「北方四島の帰属問題を解決した上で平和条約を締結する」との立場とは異なる発言であり、受け入れることはできない。
ここでも、これまで20回以上会談を重ねてきた蓄積と、プーチン氏との間である程度築いた信頼関係を活かして、日本の国益を損なうことなく、戦後動くことがなかった北方領土問題の解決策を見いだしていかねばならない。
安倍首相は来年秋に憲政史上最長の首相在任期間となるが、問われるのはその長さでなく中身だ。悲願の憲法改正、消費増税、日米貿易協議など課題は山積している。レームダックになる余裕などなく、ましてや首相の言うように、途中で退陣することなどあり得ないのである。(了)