トランプ米政権の対外政策は、安全保障と通商の両面から中国と対決し、「新冷戦」の到来を覚悟したかのようだ。ペンス副大統領がワシントンで4日行った演説をもって、レーガン元大統領がソ連を「悪の帝国」と呼んだ瞬間を彷彿とさせるとの論評は妥当であろう。米国はこれまで、国際秩序を無視した中国の影響力拡大を見過ごしてきたが、ペンス演説は「それらの日々を終わりにする」との決意を表明した。トランプ政権に求めることがあるとすれば、素早く同盟国との戦略調整に入ることである。
●21世紀の覇権争い
いつの時代も、貿易戦争は先端技術の争奪に根差している。19世紀の英国も、20世紀の米国も、その時代の先端技術を制して覇権を握った。今回の米中貿易戦争も、21世紀の覇権をどちらが握るかの戦いなのではないか。ペンス副大統領の演説はまさに、対決が貿易戦争にとどまらず、安全保障、人権分野に関しても、米中関係を「リセット」すると宣言した。とくにペンス氏は、中国が11月の米中間選挙をターゲットに「米国の民主主義に干渉している」ことを重視する。サイバー攻撃を仕掛け、大学やシンクタンクに資金を流し、ジャーナリストの行動を制限して、米国の民主主義システムを妨害していることを非難した。
演説で耳目を引いたのは、北京が自国民の自由と人権を抑圧するため、2020年までにすべてを共産党の監視下に置く「オーウェル的システム」の導入を目指していると糾弾したことだ。英国の作家ジョージ・オーウェルが描く全体主義小説「1984年」の陰鬱な世界を指している。人々が社会主義の名の下に自由を奪われ、反政府的な言動の一切が封じられる世界だ。中国に進出する日米欧の企業内にまで「党組織」の設置を強要される異常さも浮き彫りにした。
●対中政策で日米協調を
すでにトランプ大統領は国連安保理で、中国が中間選挙を標的に妨害行為をしているとして怒りを爆発させている。「トランプ後」の米国大統領が、トランプ氏ほど対中強硬姿勢はとらないとの考えから介入してきたとの判断だ。だが、ペンス演説はこの大統領個人の情念を超えて、ボルトン大統領補佐官、マティス国防長官の考え方が色濃く反映したものであるという。この対中観の変化は、決して政権内のタカ派に限ったものではない。米国人はソ連による初の人工衛星打ち上げ(スプートニク・ショック)のように、出し抜かれたと判断したときに、強烈な対抗心を燃やす傾向がある。
すでに米議会は、超党派の厳しい対中姿勢を反映し、国防権限法などを通じてトランプ政権に対抗策を義務付けている。中国企業による投資の審査を厳格化し、インドや台湾との防衛協力を強化する条項も盛り込まれている。米国の厳しい対中姿勢に対し、最近の安倍政権は習近平政権の対日友好ムードを受け入れているように見えるが、安易に日米引き離しの策に乗るべきではない。中国の覇権主義的な動きを阻むためにも、同盟国として米国との協調が求められる。(了)