中国の人権状況などを監視している米議会の超党派委員会が10日、中国の習近平政権によるウイグル人らイスラム教徒の抑圧を「人道に対する罪」と糾弾する年次報告書を公表した。4日にペンス副大統領が中国の内政、外交、経済、軍事政策を網羅的に批判する演説をしたのに続くもので、米国の政府と議会が中国に対する厳しい姿勢で歩調を合わせた。
●「北朝鮮並み」の人権侵害
2000年に設置された超党派の「中国に関する議会行政府委員会」の現メンバーは上院議員9人(共和5人、民主4人)、下院議員6人(両党各3人)で、全員一致により報告書を採択した。委員長は2016年の共和党大統領予備選で善戦したマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)だ。
報告書は、中国の人権問題をめぐる過去1年間の重要な動きとして、中国西部の新疆ウイグル自治区でウイグル人ら100万人以上のイスラム教徒が「再教育」キャンプに収容されたことを特に問題視した。そして、同自治区が「北朝鮮に匹敵する警察国家」であり、「南アフリカ共和国の(旧白人政権が採用した)アパルトヘイト(人種隔離政策)のような民族差別」を行っているという専門家の説明を引用して、「前例のない少数民族抑圧」が進行中であることを際立たせた。
最近の米中関係の焦点である貿易戦争は、トランプ米大統領が主導した。しかし、ペンス演説や今回の報告書からはっきりしたのは、米国を凌駕する大国になる野望をもはや隠さない中国に対する厳しい認識が米政界全体に共有されていることだ。それは「トランプ後」にも引き継がれると見なければならない。
●日本の沈黙は許されない
トランプ大統領が「米国第一」で自由世界の先頭に立たないため、自由、民主主義、法の支配、人権を重視する世界秩序が挑戦にさらされているとの危機感が米国内に生まれている。人権問題に限っても、中国の政治的、民族的抑圧だけでなく、ロシアによると見られる英国での元二重スパイ毒殺未遂事件は記憶に新しい。つい最近は、サウジアラビアの在イスタンブール総領事館で反体制派のサウジ人ジャーナリストが姿を消し、殺害されたと疑われる事件が起きた。
世界の人権問題への対応が問われるのは、自由世界のリーダーであるべき米国だけではない。日本も傍観者であってはならない。とりわけ中国の人権侵害に米国の政府と議会が一致して声を上げた時に、日本の政府や国会が沈黙し続けることは許されない。
米議会超党派委員会の報告書はトランプ政権に対し、ウイグル人らの大量収容に責任のある中国当局者を対象に制裁を発動するよう求めるとともに、中国の人権問題で他の諸国と多国間の対中戦略を立てるよう提言している。米国からの働き掛けを待つまでもなく、10月下旬に北京を訪問する安倍晋三首相は、習近平中国国家主席との会談でウイグル人らの人権侵害を提起すべきだ。(了)