私は10月1日付の本欄で、11月1日から発効する南北軍事合意書の危険性を指摘した。そこで書いたように、一方的な武装解除とも言える合意書に対して、韓国内では退役軍人や保守派から批判の声が高まっている。しかし、驚くべきことに、現役の軍人や国防省幹部の中で辞表を出して抗議する者が1人も出てこない。それどころか、公然と危険性を指摘する者もいない。
●弱まる一方の国防力
韓国の自由民主主義秩序は想像を超えるほど弱体化している。書きだせば切りがない。
例えば、軍事合意書の危険性の一つとして、朝鮮半島の西の黄海上で北朝鮮のすぐ近くにある韓国が支配している五つの島「西海5島」で、11月1日より軍事演習が禁止されたことにより、5島への北朝鮮の攻撃を防ぐ防衛力が低下しかねないと、私も指摘してきた。ところが、最近の韓国紙の報道によると、5島に駐屯する海兵隊の演習は文在寅大統領が板門店で北朝鮮の金正恩労働党委員長に会った4月以降、行われていなかった。海兵隊員は島を離れ、北朝鮮から遠い陸地で演習をしているという。兵士の練度はそれで保てるかもしれないが、島に置かれているロケット砲などは使われないままさび付くことになりかねない。
また、7月に文大統領は国防省が作成した国防改革案を承認した。それによって、4年後の2022年までに陸軍60万人のうちなんと12万人を削減することが決まった。現段階では北朝鮮は約束した核放棄を実行しておらず、通常兵力については削減する意思さえ示していない。その段階で韓国軍を2割削減するというのだ。
ソウル北方の道路には北朝鮮の戦車が南進してくることに備えて、有事に爆破して道路を塞ぐ対戦車防御施設が多数設置されている。交通渋滞の原因になっているなどとする地域住民の請願により、昨年までの5年間に年平均1.8個が撤去されたが、今年に入り13個が解体されるという(既に3個が解体され、残る10個の解体を計画中)。
●大統領を取り巻く革命家集団
なぜ文政権は自らの国防力を一方的に弱めているのか。文大統領は反共の立場から民主化を求めた1970年代の学生運動のリーダーで、北朝鮮を支持するいわゆる「主体思想派」が学生運動の主流になった80年代には大学生ではなく弁護士だった。だから、思想的に北朝鮮を支持して赤化統一を目指す革命運動に参加したことはない。従って、文大統領は共産主義者ではなく、80年代から猛威をふるった「左傾親北民族主義」のとりこになって、北朝鮮の怖さを直視できなくなっているのかもしれない。
しかし、文大統領が大統領府の秘書官として登用した人材の多くは80年代に北朝鮮支持の革命運動家だった者たちで、その後も転向宣言をしていない。韓国の防衛力が下がることが革命にとって有利だと信じている確信犯である危険性が高い。
自ら武装解除を実行していく文政権に対していまだに支持率は5割以上ある。韓国は国家自殺の道を歩んでいる、と韓国保守派が血の叫びを上げている。(了)