公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第565回】今年をチャンスの年にしよう

櫻井よしこ / 2019.01.07 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 日本の覚悟次第だが、今年は好機の年となる。国の在り方を根本から問われる幾つもの切迫した課題に押し込まれるのではなく、果敢に挑戦することによって、好機の年は実現する。日本の運命を決するのはあくまでも日本自身だと痛感する。
 トランプ政権の米国の動向は予想しかねる要素はあるが、戦後約70年間、米国に大きく依存した安全保障の在り方がもはや通用しないことだけは明らかだ。より自立した安保態勢を築き、米国にとって日本が欠くべからざる同盟国となることが必要だが、安倍政権下でその作業は少しずつ進んでいると評価してよいだろう。3年前の平和安全法制の整備で自衛隊の活動の幅が少し広がったことは幸いである。
 だが、私たちが自立国家に向けての変革を成し遂げられるかは、サイバー攻撃やミサイルの脅威に晒されるいま、時代遅れとなった専守防衛の考え方を脱し、憲法改正に踏み込めるか否かにかかっている。これこそ今年最大のテーマだ。

 ●歴史問題でまともな国になり始めた
 国の在り方でもう一つの深刻な問題が歴史問題だ。これは日本が国家として、正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると主張できるかという課題と背中合わせだ。日本政府は長年、歴史問題に関しては防戦さえしなかった。事実に基づかない非難の前で一方的な謝罪と沈黙を通した。その悪癖にようやく変化が生じている。政府は年初に、戦時朝鮮人労働者問題に関して、韓国への対抗策の準備を関係5省庁に指示した。
 半世紀以上前の国家間の正式な取り決めである日韓請求権協定を、韓国大法院(最高裁判所)が根本から否定する判決を出したことから始まったこの問題を、第二の慰安婦問題にはしないとの政府の決意が読み取れる。国際社会に広まった慰安婦=性奴隷説を覆すのは容易ではない。発生当初から問題に正対することが如何に大事かということだ。今回、政府は韓国側に訴えられた日本企業を守る構えを当初から見せた。まともな国のまともな反応を、日本もようやく示すことができ始めたのである。

 ●新元号発表時期の理想と現実
 民主主義国として、また深い伝統を保持する国として、日本は必ずアジアと世界に意義ある国家像を示し得ると考えていた矢先、1月5日の産経新聞の記事に少々驚いた。
 今上陛下ご譲位と新天皇ご即位に関して、新元号発表時期をご即位よりひと月前の4月1日にした最終決定打は米マイクロソフト社の基本ソフト「ウィンドウズ」の更新時期だったというのである。数十万社の期末決算、法人税納付期限などを考慮して、更新作業の時間を取らざるを得なかったそうだ。
 ご即位と同時の新元号発表を理想とする文化、伝統に基づく主張がコンピューター社会の現実によって退けられた。変化はこのように否応なく起きる。そうした中、日本国とは何か、日本人とは何かについて、より深い自覚こそ欠かせないと心した新年だった。(了)