公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第564回】明らかになった米の攻勢と中国の守勢

田久保忠衛 / 2018.12.25 (火)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 過去1年の国際情勢を回顧して、日本の命運に関わる最大の動きは、米中関係の今後を占う材料がようやく出そろい始めたということであろうか。ありていに言えば、米国が「米国第一主義」をさらに強めてきた点と、米中貿易戦争の衝撃を受けた中国が広まり行く中国批判の国際的大合唱の中で「危険な台頭」を強行できなくなってきた点の二つである。

 ●トランプ政権に欠ける同盟重視姿勢
 米中両大国の間で方向を模索しなければならない地政学的位置に身を置く日本にとっての救いは、10月4日にペンス米副大統領が行った演説であった。中国の軍事的進出、不公正な貿易慣行、強制的な技術移転、対外宣伝工作など各分野にわたる総合的な批判に快哉を叫んだ国は、日本だけではない。米国の中国批判はアジア、欧州など国際社会全体に波紋を広げつつある。
 ただし、ペンス演説に欠落しているのは同盟国論だった。辞任を明らかにしたマティス国防長官が12月20日に公開したトランプ大統領宛ての書簡で、「米国は自由世界に不可欠の国だが、強い同盟関係を維持し同盟国に敬意を示さなければ、国益を守ることはできない」と明言している。
 マティス長官はシリアからの米軍撤退を決めたトランプ大統領に異議を唱えたが、米軍撤退はシリアにおける力の均衡をロシアとイランに有利にするだけで、米国と共に戦ったクルド人勢力、一部湾岸諸国、英国、フランスへの配慮は見られない。トランプ大統領が口走ってきた在韓米軍の撤退もあり得ないことではない。トランプ政権のあと2年間に国際政治で改めて問題になるのは米国のリーダーシップではないか。

 ●中国経済に先行き不安
 中国の脅威に日本は引き続き細心の注意を傾けなければならないのは当然だが、同時に、中国の弱点に無関心であってはならない。英国やフランスが南シナ海の「航行の自由」に関心を持ち始めた上、ドイツまでもが中国による投資を標的に外資規制の大幅強化に乗り出すなど、中国は四面楚歌の状況に置かれている。その中にあって中国経済に不安が出ている。
 「人民元の台頭」の著者であるエスワー・プラサド・コーネル大学教授が最近、中国内で広範な取材を行った結果、中国当局者が経済に深刻な不安を抱いており、米国との貿易戦争の早期終結を望んでいるとの趣旨の論考を12月21日付ニューヨーク・タイムズ国際版に発表している。米国が標的にする知的財産権の侵害や、先端技術と製造業の融合を目指す産業政策「中国製造2025」で、中国は譲歩し始めた。これは中国の国内政治に影響を及ぼさないで済むか。
 安倍政権は米中間でさらに複雑な対応を迫られそうだ。(了)