公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第581回】「一帯一路」でG7の一角崩れる

田久保忠衛 / 2019.03.25 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 中国が巨大経済圏構想「一帯一路」に欧州を巻き込もうとする勢いがにわかに強まってきた気配だ。習近平国家主席は欧州歴訪の最初の訪問国にイタリアを選び、22、23の両日、ローマでマッタレッラ大統領、コンテ首相とそれぞれ会談し、一帯一路推進を覚書で確認した。次いで李克強首相は4月9日にブリュッセルを訪れ、欧州連合(EU)首脳と短時間の会談をした後、クロアチアに滞在し、バルカン5カ国および東欧のEU加盟11カ国との経済協力の枠組み「16プラス1」の首脳会議で一帯一路を主要テーマにする予定だ。

 ●中国とイタリアが協力覚書
 ローマでの合意内容は道路、港湾、情報通信などのインフラ整備の協力だが、先進7カ国(G7)でこの種の覚書を締結したのはイタリアが最初である。
 欧州全体に中国の影響力増大への警戒心が広まっているさなかにイタリアの足並みが乱れた理由は、①イタリア政府が反EUと反移民を唱えるポピュリスト2政党「五つ星運動」と「同盟」の連立政権である②イタリアの予算配分をめぐってEUとイタリアは対立を続けている③イタリアは悪化する経済を中国からの投資で回復したい―などによる。
 ただし、中国への対応をめぐってはイタリア政府にも閣内対立があり、習主席を招いた夕食会にサルビーニ副首相兼内相(同盟党首)が欠席して問題となった。
 イタリアが一帯一路にどう関わっていくかは今後の問題だが、仮にトリエステ、ジェノバ、シチリア島などの港湾建設計画に中国が参入するようなことになると、単なる経済問題ではなく、欧州全体の安全保障問題に発展する恐れがある。

 ●EU分断の気配も
 習主席がローマに到着した22日にブリュッセルでEU首脳会議が開催され、欧州に経済的、政治的影響を及ぼす中国にどう対応するかが検討された。EU全体が中国問題を検討するという事態は、中国が民主化運動を武力鎮圧した1989年の天安門事件以来であろう。ここ数年で米国内に拡大した対中警戒論がようやく欧州全体に波及してきた感がある。
 EU首脳会議では、ドイツのメルケル首相からコンテ首相に「(中国との覚書交換に当たって)内容を吟味しなければならない」との意見が述べられた。しかし、EU加盟国ではイタリア以外にギリシャ、ポルトガルなど13カ国が既に覚書を締結しているから、EUが中国に分断されることも予想される。
 米国は中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)などに安全保障上の問題ありとして厳しい目を向けているが、EUが全体としてこれに歩調を合わせることができるか。中国の攻勢に対して米国と同盟国が防戦に立たされるという西側の弱点が表面化しつつある。(了)