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西岡力

【第586回・特別版】慰安婦が奴隷でなかった証拠を見つけた

西岡力 / 2019.04.08 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 3月下旬、台湾における歴史認識問題を調べるため現地調査を行い、台北で台湾出身慰安婦に関する民間博物館を見学した。驚いたのは、元慰安婦名義の預金通帳が展示されていたことだ。1945年1月現在の残高は2万4004円65銭と記されていた。博物館の英文説明は慰安婦をsex slave(性奴隷)と書いていたが、当時としては多額の預金をすることができたのだから、無報酬で働かされる奴隷でなかったことは明白だ。

 ●台湾の博物館に預金通帳展示
 今回の現地調査は、私が会長を務める「歴史認識問題研究会」の活動の一環として行った。同会は国家基本問題研究所の髙橋史朗理事や島田洋一企画委員らと平成28年に結成したもので、櫻井よしこ理事長には顧問に就いてもらっている。
 見学した慰安婦博物館は「阿マの家 平和と女性人権館」といい、女性の人権に関するNGOの「婦女救援基金会」が2016年12月に開館させた。「阿マ」は「おばあさん」という意味だ。同年3月の看板除幕式には当時の馬英九総統が出席している。
 展示されている預金通帳によれば、1944年12月7日に取引が開始され、まず5000円が入金された。1945年1月○日(インクがにじんで判読不能)に利息が4円65銭つき、同じ日に8400円が入金された。最後に同月31日に1万600円が入金され、残高が2万4004円65銭となった。すぐ下に「上記残高相違無き事証明仕(つかまつ)ル也」と書かれている。
 隣に展示されていた残高証明らしい書類に「陳氏連花 台湾銀行預金」と書かれているので、この通帳は台湾銀行のものであることが分かる。台湾銀行の通帳に入金されたということは、戦地からの送金がきちんと届いていたことになる。通帳があったのだから、帰国後に引き出すことができたはずだ。なぜそれをしなかったかは不明だ。

 ●未精算の個人請求権
 日韓基本条約と協定で預貯金を含む個人請求権が清算された韓国人と異なり、台湾人の持つ個人請求権は清算されなかった。平和条約締結時に当時の中華民国政府は賠償要求を放棄した。日本は台湾人の請求権清算のための交渉を求めたが、国民党独裁だった政府は台湾人を保護する考えがなく、求めに応じなかった。その結果、台湾人への戦後補償は放置された。この通帳の所持者は、いつか日本から補償がもらえるかもしれないと考えて通帳を保管していたのかもしれない。
 すでに韓国人元慰安婦の文玉珠さんは2万6145円の預金をしていたことが明らかになっている。文さんはビルマの慰安所で働き、多額の軍事貯金をしたとして日本政府を相手に貯金払い戻しを求める裁判を起こした。通帳を紛失していたが、戦後、軍事貯金を引き継いだ郵便貯金の記録から貯金額が判明した。文さんは「故郷の大邱では1000円あれば家が1軒買えた」「実家に5000円送金した」と証言している。
 韓国の朴正熙政権(当時)は日本からの清算資金を使って、通帳所持者に1円=30ウォンの換算で個人補償を実施した。加えて盧武鉉政権(同)は預貯金所持者に1円=2000ウォンと換算し直して、再度個人補償を行った。この点が台湾との違いだ。(了)