公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

黒澤聖二

【第587回】F35A墜落の原因究明と対策を急げ

黒澤聖二 / 2019.04.15 (月)


国基研事務局長 黒澤聖二

 

 今月9日午後7時ころ、航空自衛隊三沢基地所属の最新鋭のF35Aステルス戦闘機1機が訓練中に青森沖の太平洋上で墜落した。機体の構造上の問題か、操縦士が平衡感覚を失うなど人為的問題なのか、現時点で原因は不明である。
 F35Aは第5世代に分類される最新型で、老朽化したF4の後継として昨年1月から空自への配備が始まった。将来的に我が国は計105機、短距離離陸・垂直着陸型のF35Bも42機導入する計画だ。製造は米国のロッキード・マーチン社だが、米英など9カ国の国際共同開発で、わが国の航空機メーカーも最終工程の組み立てを行う。
 事故原因を究明できなければ、わが国の安全保障を損ね、世界的な影響も懸念される。

 ●払拭すべき多くの疑念
 そもそもF35には、開発の段階から様々なケチがついてきた。海軍、空軍、海兵隊など多方面からの要求を入れたことで重くて動作の鈍い機体となり、また試験段階で搭乗員の非常脱出装置に重大な欠陥が報告され、さらにソフトウェアの開発ミスが重なり納期が遅れるなど、決して上々の船出とは言えなかった。
 事故機は2017年と2018年の過去2回、飛行中の不具合で緊急着陸をしていたことも明らかにされたが、今回の事故との関連はないのか。ステルス性を重視する機体設計だが、運動性能を犠牲にしていないか。コックピットは電子化され、ヘルメットに装備されたディスプレイは周囲360度を見渡せるというが、緊急時に錯覚を起こす原因にならないのか。墜落した機体はわが国で組み立てられた1号機だったが、組み立てに不都合な点はなかったか。これは多々ある疑念のほんの一部でしかない。

 ●空の守りを固めよ
 海底1500mに沈んだ機体の引き揚げが大変困難なことは想像できる。しかし、速やかに製造元と協力し、全力で事故原因を究明し、対策を講じる必要がある。なぜなら、このままF35Aの信頼性が損なわれると、東アジアの空のパワーバランスが崩れる恐れがあるからだ。すなわち、中国では、すでにF35に相当する第5世代戦闘機のJ20が実戦配備され、2035年までに第6世代戦闘機を導入するともいわれる(2月11日付環球時報)。昨年度の空自のスクランブル回数は999回、そのうち対中国機は6割を超すという状況で、航空戦力の空白を作ってはならない。
 他方、これまでの事故報道を見ていると、操縦士の安否を気遣う報道が少ないと感じる。事故に遭ったのが、危険を顧みずに国を守る覚悟の軍人であっても、事故原因の探求の前に「まずは捜索救難に全力を」が世界の常識だと思う。無人機ならともかく、墜落前に最後の通信を発したのは血の通うパイロットだ。もっと隊員を大事に扱って欲しい。(了)