習近平中国国家主席が力を入れる「一帯一路」構想は、世界的規模で中国の経済的利益や政治的影響力を拡大するだけでなく、完成したインフラが中国に軍事利用される可能性があるなど「地政学的リスク」も大きい。その実態が、最近公表された米国の研究報告書で浮き彫りになった。
●米研究所が中国10事業を検証
米国のシンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)は国務省の委託を受け、世界各地に広がる一帯一路の関連プロジェクト10件について国家主権侵害の有無など7項目の問題点を検証し、そのうちアルゼンチンの宇宙探査センター、ジンバブエの顔認証システム、イスラエル、ミャンマー、バヌアツの三つの港湾整備の合計5件には地政学的リスクがあると判定した。
アルゼンチンの宇宙探査センターは、中国が総工費5000万ドルをかけて建設したもので、2018年3月に運用が始まった。中国人民解放軍の1部門によって運営されており、アルゼンチンを米中両国の宇宙軍事利用競争に巻き込む、と報告書は結論付けた。
ジンバブエ政府は2018年3月、中国の人工知能企業と契約を結び、全土に監視カメラを設置して国民の顔情報を収集することにした。ジンバブエがデジタル技術を使って国民締め付けを強化する中国模倣国家になる危険がある、と報告書は指摘した。
イスラエル政府は2015年、中国企業との間で、ハイファ港の新ターミナル建設と、完成から25年間、その運営を任せる契約を結んだ。ハイファ港は米第6艦隊の定期的な寄港先で、港の運営を中国に委ねることへの懸念を米政府が伝え、イスラエルは合意を見直し中という。
ミャンマーのチャオピュー港整備プロジェクトは、深海港と経済特区を開発する総工費100億ドルの計画である。完成すれば、中国は中東などの石油を狭いマラッカ海峡を通さず、インド洋から中国南部の雲南省へ直接運ぶことができる。深海港なので、中国の軍艦も利用できる。ただし、ミャンマー政府が巨額の建設費を懸念して規模縮小を望み、工事が遅れている。
南太平洋の島国バヌアツのルーガンビル港で中国が改修した埠頭は規模が大きく、中国空母の停泊も可能と米当局は見ている。中国の軍事利用が始まれば、バヌアツは中国と米豪両国が軍事的に張り合う舞台となる。
●日本の援助にお墨つき
CNASの報告書は一帯一路のプロジェクトと対比するために、日本の政府開発援助(ODA)によるバヌアツのポートビラ港埠頭整備事業も検証し、この事業には明確な商業的合理性があり、地政学的リスクを含め問題点は一つもないとお墨つきを与えた。
日本政府は安倍晋三首相のインド太平洋構想を一帯一路の代替策として途上国に売り込んでいるが、日本のインフラ整備事業が開放性、透明性、経済性、受け入れ国の財政健全性を重視することに説明の力点を置いてきた。今後は、地政学的リスクのなさも一帯一路との大きな違いであることを強調し、日本支援プロジェクトの優位性をもっと積極的に広報すべきではないか。(了)