朝鮮人戦時労働者問題で、関係する日本企業の韓国内財産の差し押さえが実行されたことを受けて、日本政府は安倍晋三首相の指示により対抗措置の準備を進めている。麻生太郎副総理兼財務相は3月12日の衆院財務金融委員会で、対抗措置として、①関税引き上げ②送金停止③ビザ発給停止―を例示した。それ以外に、特定産品の輸出禁止や投資制限などが専門家によって挙げられている。
日本政府は対抗措置の実施時期を、差し押さえられた財産が現金化された時としている。日本側の対抗措置は差し押さえの被害額にほぼ相当する規模とし、かつ日本企業の損害を最小にするものを探すべきだ。私は、その条件に一番合致するのは韓国の特定産品への関税引き上げだと考えている。
●差し押さえ財産現金化の恐れ
戦時労働者訴訟の原告とその日韓の支援者らは、差し押さえた財産を近く現金化すると表明しつつ、日本企業に和解による解決を迫っている。日本企業は、和解はもちろん原告らとの協議も拒否している。支援者の狙いは和解による多額の基金づくりだ。基金なしには22万人もいる韓国政府認定の被動員者への補償ができないからだ。
韓国政府の調査では、日本内地で動員による朝鮮人労働者を雇用した日本企業は約1300社だが、そのうち約1000社はすでに存在しない。また、22万人のうち7万人は日本政府が雇用主である軍人・軍属だ。元軍人・軍属とすでに存在しない企業で働いた者は、日本企業を相手に民事訴訟を起こせないから、戦時労働者への賠償金支払いを日本企業に命じた韓国最高裁判決の恩恵を受けられない。だから、支援者は基金づくりを狙うのだ。
当面は現金化の動きはないだろう。ただ、原告が支援者の意向を無視して現金化を行う内紛はいつ起きてもおかしくない。日本政府と企業が現在の姿勢を貫くなら、考えられる解決策は韓国内だけで基金をつくることだが、差し押さえられた財産を現金化してその基金に組み入れようとする動きが出るかもしれない。安倍首相が指示した対抗措置の準備を急ぐべき理由だ。
●緩慢な政府与党の動き
関税引き上げを実行するためには関税法の改正が必要だ。しかし、政府はその準備を進めているようには見えない。外交上の観点から政府が法改正を主導するのが不適切なら、議員立法で改正を進めるべきだが、韓国を強い調子で批判している自民党内にも、法改正への具体的動きがない。法的準備をするだけでも外交カードになる。政府と与党の動きは緩慢すぎないか。(了)