シャナハン米国防長官代行がシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で米国のインド太平洋戦略を発表し、アジア地域への関与継続と同盟関係を重視したマティス前長官の基本路線を継承することを表明した。シャナハン氏は議会の承認を経て正式に国防長官に就任する見込みで、同盟国からの信頼が厚かった前長官の路線の継承は、日本はじめインド太平洋地域の同盟・友好国の長官交代に対する不安を和らげるだろう。
●「中国は他国の主権侵食をやめよ」
シャナハン氏はシャングリラ対話での演説で、戦後の国際秩序を組み替えようとする「現状変更勢力」とりわけ中国との「戦略的競争」を米国の安全保障上の最大関心事と位置付けたマティス前長官の「国家防衛戦略」(2018年1月公表)を踏襲し、これをインド太平洋地域に適用した「インド太平洋戦略報告書」を作成したことを明らかにした。同報告書の全文は国防総省から公表された。
シャナハン氏はインド太平洋戦略の概要を説明した中で、インド太平洋地域に対する米国の関与継続を確認するとともに、同盟・友好国との関係強化を同戦略の3本柱の一つに据えた。他の二つは米軍の有事即応体制の強化と、関係国との多層的な安全保障ネットワークの構築だった。同盟・友好国に対しては「公正な責任分担」を求め、自国防衛に十分な投資を行う必要があるとクギを刺した。
シャナハン氏は演説で、中国を念頭に「どの国もインド太平洋を支配できないし、支配すべきでない」と主張した。また、「域内国家の利益に対する最大の脅威は、ルールに基づく国際秩序を揺るがそうとする行動から生まれる」と述べ、中国の名指しを避けながらも、南シナ海の軍事化、他国の内政への影響力行使、勢力圏拡大構想「一帯一路」に伴う「略奪経済」の横行、他国の高度技術の盗み出しを非難した。その上で「他国の主権を侵食し、中国の意図に不信の種をまく行動はやめなければならない」と警告した。
●台湾・南シナ海問題で米中が火花
中国は今回の会議に魏鳳和国防相を送り込んだ。中国がシャングリラ対話に現職の国防相を出席させるのは8年ぶりの2回目で、異例の積極的対応だった。中国の軍事行動への批判に責任ある地位の者が反論する必要があると感じたのだろう。案の定、中国は台湾問題と南シナ海問題で米国と火花を散らした。
魏国防相は、シャナハン氏が台湾の自衛のため防衛用の兵器と役務を引き続き提供すると言明したのに対して、「台湾問題は中国の主権に関わる」と反撃し、台湾分離を試みる者があれば、中国軍としては国家統一のため戦うしかないとけん制した。また、南シナ海軍事化への批判に対しては、自国領土に施設を造るのは主権国家の合法的権利だと反論するとともに、域外国家が軍事力をちらつかせて南シナ海情勢を不安定にしていると述べ、米軍などの「航行の自由」作戦を逆に批判した。
「中国は合法的な権利と利益を絶対に譲らない」と魏国防相が宣言したところに、米中軍事対立の根深さが露呈した。(了)