9月14日、サウジアラビア東部の重要な石油施設2カ所が無人機(ドローン)と巡航ミサイルによる攻撃を受けて炎上、原油生産が半減したため世界のエネルギー市場に衝撃が走った。その数日後、サウジ政府が、9月末には生産が回復し11月末には破損した設備が復旧すると発表したことで、一時は急騰した原油価格は落ち着きを取り戻している。しかし、これまでサウジは、世界の石油市場で最も重要な需給調整役を果たしており、その心臓部が大規模なテロ攻撃を受けたことで、その信頼性が大きく揺らいでいる。
●開戦ならアジア経済に打撃
今回の攻撃について、イエメンの親イラン武装勢力フーシが犯行声明を出しているが、米国は、攻撃に使われたのが高性能の最新型イラン製兵器で、発射地点もイランかイラクの可能性が高く、イランの関与は確実だと強く非難している。来年の大統領選挙を控えるトランプ氏は、軍事行動による米軍被害や原油価格の高騰による景気悪化を恐れており、戦争を極力回避したい意向である。
一方、イランのロウハニ政権も、経済制裁に強く反発する対米強硬派が影響力を増す中、疲弊する国内経済をさらに悪化させる武力衝突は避けたいのが本音である。
米国は9月20日、報復措置としてサウジへの米軍増派とイランへの追加制裁を発表した。しかし、両国が妥協できる出口戦略を見いだせない緊張関係が続くため、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)の石油施設への攻撃やホルムズ海峡でのタンカーの航行妨害などが繰り返される可能性が一段と高まっている。
国際石油市場への影響については、過去10年間にシェール革命が進展した米国で産油量が急増したこともあり、かつての石油危機の時代に比べると供給途絶への対応力は向上している。しかし、日本や中国、韓国、インドなどアジア諸国が輸入する原油の約80%、液化天然ガス(LNG)の約35%がホルムズ海峡を経由している。もし突発的な事件を契機に、湾岸産油国を巻き込む本格的な軍事衝突にエスカレートすれば、石油やLNGの供給不安と価格高騰によって、世界経済とくにアジア諸国は深刻な打撃を受けることになる。
●原発と再エネの共生を目指せ
日本は、1970年代の石油危機を契機に、LNGや原子力、石炭、再生可能エネルギーの導入を進めてきた結果、2017年にはエネルギー供給に占める石油比率は39%まで低下したが、輸入原油の中東依存度は87%と高止まりが続いている。中東での地政学的リスクが一段と高まる中、原発再稼働が大幅に遅れている日本のエネルギー自給率は、2017年で9.6%と先進国の中で最低の水準である。
また近年、世界的に気候変動リスクが顕在化しており、日本はエネルギー安全保障の向上と温暖化対策を促進するために、「脱原発」対「原発推進」の二項対立を乗り越えて、原子力と再生可能エネルギーが共生する低炭素社会を目指すべきである。(了)