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太田文雄

【第624回】「日本の防衛は日本にさせよ」が米の本音

太田文雄 / 2019.10.07 (月)


国基研企画委員兼研究員 太田文雄

 

 10月2日に北朝鮮は、東部元山沖から潜水艦発射弾道ミサイル「北極星3号」を通常より角度を上げて高く打ち上げるロフテッド軌道で発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させた。河野太郎防衛相によると、通常軌道で発射した場合の射程は2500kmで、日本全域が射程内に入る。
 北の潜水艦が米国沿岸に進出すれば米本土も狙えるとの報道もあるが、静粛化が進んでいない北の潜水艦が日本のコントロール下にある海峡を探知されずに通過することは、現時点では極めて困難である。また、韓国を標的とするのであれば、弾道ミサイル防衛システムで迎撃困難な短距離ミサイルで十分だ。従って「北極星3号」の主たる標的は日本と見なければならない。9月末公表の日本の防衛白書は、北の核開発について「核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っているとみられる」と初めて記述した。
 然るに同盟国である米国のトランプ大統領は、国連決議違反である一連の短距離弾道ミサイルに加え、今回の発射実験も問題視せず、予定通り米朝実務者協議を行った。要するにトランプ大統領は日本に「自国の防衛は自国で行え」と言っているのだ。
 こうした情勢の激変は、日本の防衛政策の基本である専守防衛や非核三原則がこのままで良いのかという根本的な疑問を突きつけている。

 ●中国をミサイル削減交渉に引き込むには
 1日には、中国で建国70周年の軍事パレードが過去最大規模で行われた。その中で最も注目に値するのが多種多様な弾道ミサイルで、ミサイル防衛システムでは迎撃困難な極超音速のものもあった。
 これまで中国は、1987年に米ソ間で締結された中距離核戦力(INF)全廃条約に拘束されないのを良いことに、INF条約禁止対象の中距離陸上発射ミサイルを開発、配備してきた。これに危機感を抱いた米国は本年INF条約から脱退、8月にエスパー国防長官はアジアに陸上発射中距離ミサイルを配備したい意向を示した。
 中国を中距離弾道ミサイル削減交渉のテーブルにつかせるためには、米国もアジアに陸上発射中距離ミサイルを配備して均衡を取ることは理に適っている。配備先としては、オーストラリアや米領グアム島は遠すぎるし、韓国、台湾、フィリピンが政治的に難しいので、日本しかない。そのためには非核三原則の見直しが必要となる。

 ●憲法9条は邪魔な存在に
 北が5月末から数回発射してきた短距離弾道ミサイルや、中国が建国70周年軍事パレードで披露した極超音速滑空ミサイルDF17は、現在のミサイル防衛システムでは迎撃困難である。これらを撃墜するためには、打ち上げ直後の速度が上がっていないブースト段階で無人機によるレーザー攻撃などで破壊するか、発射直前に基地を叩く策源地攻撃しかない。前者はミサイルに相当接近しない限り、現在のレーザー出力からして破壊できない。後者も敵地攻撃なので、専守防衛政策の下で実現させることは難しい。
 「自国の防衛は自国で」という方針のトランプ大統領にとっても、日本の憲法9条は邪魔な時代になってきたのではないか。(了)